日経ビジネスは9月25日号の特集「寝るな日本人」で、縮小傾向にある深夜時間帯の消費活動について現状をルポし、その要因を探った。日本を代表する歓楽街も、バブルの頃」は華やかなりしナイトスポットも、24時間眠らぬはずの「郊外やんちゃタウン」も軒並み閑古鳥が鳴いている。
「寝るな日本人」とのメッセージを込めて、イラストレーターのわたせせいぞうさんに表紙イラストを描いていただいた。夕暮れ、スポーツカーでナイトドライブに出かける仕事上がりの若い男女の姿。だが、時代は変わった。
わたせさんは「最近の若い人はクルマには本当に興味を示しませんよね。恋愛への興味も以前より薄れて、漫画雑誌の編集者も『恋愛漫画は読者に受けない』と言うほどです」と話す。
縮小傾向にある深夜時間帯の消費活動に対して企業はどのような手を打てばいいのか。今回は昼経済にシフトする企業の動向を探った。
月曜日のランチタイム、ファミリーレストランのロイヤルホスト桜新町店には次々と客が来る。東京都世田谷区の閑静な住宅街にありながら、国道246号に面している絶好のロケーションで客層も様々だ。
子供を連れた主婦、オフィスで働く男性、女性社員、高齢者のグループ、トラックで乗りつけた作業服を着た男性などだ。約100席ある店内は12時10分ごろにはほぼ満席になった。
同社の佐々木徳久社長は「深夜営業を廃止し、さらに営業時間の短縮を進め、ランチ帯を中心に人材など経営資源を集中している」と話す。
平日のランチタイム。多くのお客でにぎわうロイヤルホストの店舗(写真:北山 宏一)
ロイヤルホストが、大手ファイレスでは当たり前だった24時間営業の見直しを始めたのは2011年だ。ブランド再生計画「価値創造戦略」を策定し、終日営業の廃止を盛り込んだ。
その理由について佐々木社長は「ファミリーレストランの全盛期は1980年代。当時はコンビニエンスストアも少なく、24時間営業が目新しかった。だが、その後、深夜に来店するお客が徐々に減った。その傾向が2011年ごろ特に強まってきた」と説明する。
6年間で24時間営業店を全廃
深夜の客が減った理由について、1)繁華街で飲み屋の需要が減り飲んだ後の客が来なくなった、2)飲み屋が減りそこで働く従業員が閉店後に来店しなくなった、3)働き方改革などで残業が減り、外食をせず家に帰る人が増えた、4)東日本大震災を契機に家族とのつながりを重視して家で過ごす人が増えた、5)健康志向で深夜に食事を取らない人が増えたことなど5点を挙げる。
2011年には6店、12年には16店という具合に24時間営業をやめ、今年2月、東京都府中市の府中東店を最後に24時間営業をしている店をゼロにした。
ロイヤルホストの1店舗当たりの売上高は90年代をピークにその後、30%以上落ちた。特に落ち込みが大きかったのが深夜の時間帯だ。
24時間営業店ではかつては夜2時~朝7時までの売上高が1日全体の25%超える店舗もあった。だが、深夜営業を見直した2011年には3~4%にまで下がっていた。
「深夜は食事をするお客が多いので客単価も高く、かつては収益の大きな柱だった」と佐々木社長は振り返る。
ロイヤルホストでは最初のステップとして24時間営業から朝7時開店、夜2時閉店へと変えた。深夜の5時間、店を閉めることになる。売上高は3~4%ダウンする。
それをカバーするために同時に実施したのが店の改装だ。24時間営業をやめるのは単に営業時間を短くするだけではなく、ランチなど日中の営業に力を入れ、ファミリーレストランの名称通り、家族客の取り込みに力を入れた。同時に禁煙化も進めた。
「客席を喫煙、禁煙エリアに分煙すると平日は喫煙席が足りず、休日は禁煙席が足りなくなるなど営業効率が悪くなる。平日はタバコを吸うビジネスパーソンなどが多く来店し、休日はタバコを吸わない家族連れが多く来店するからだ。全席禁煙にしたことで客席当たりの回転率がよくなった。お客様をお待たせしないのでサービス向上にもつながった」(佐々木社長)
営業時間を減らしても売上高を減らさない
ロイヤルホストでは店舗改装だけで売上高5%アップの効果があるという。これだけで深夜5時間分の売り上げは回収できる。
さらに、夜12~夜2時、朝7~朝9時の営業もやめ、現在では朝9~夜12時までの15時間営業の店舗が中心となった。24時間営業からは9時間の時間短縮だ。24時間営業からは6~8%売り上げが減る。
それでも調理作業の自動化などの効率化を進め、メニューの充実により客単価を高める工夫などをした結果、営業時間短縮の負の影響はカバーできているという。
実際、同社の1店舗当たりの年間売上高は、2010年に比べ、2016年は約5.5%アップした。不採算店の閉鎖など様々な要因もあるが、深夜営業をやめることが大きなダメージを生まないことを示すデータであることは間違いない。
同社ではさらに営業時間の見直しを進め、朝9時~夜11時へと深夜帯からのさらなる撤退も視野に入れている。
深夜営業をやめて時短を図ることは、人件費削減、ロイヤルホストの働き方改革にも大きな効果を上げている。深夜帯は25%時給が上がるため、人件費が割高になる。アルバイト、パートが少ないため店長や料理長など社員が長時間、現場で働かざるを得ない。こうした弊害もなくなった。
深夜から日中を重視する戦略に転換しているのはファミレスだけではない。深夜の稼働が高いタクシー業界でも変化が起きている。
「タクシーは深夜が稼ぎ時という先入観があり、朝の需要を取りこぼしていた」。
タクシー大手の日本交通(東京都千代田区)の労務担当者はこう話す。
同社ではスマホアプリを使った無線配車を積極的に導入している。そのため無線配車の利用は全体的に増加している。
顧客を待つ日本交通のタクシー。無線配車は早朝時間帯の需要が増えている
無線配車の利用データから時間帯ごとの需給バランスを算出した結果、見えてきたのが朝7時~10時のタクシー供給不足だ。
「お客様がタクシーを呼びたくてもアプリではつかまらない。電話してもクルマが足りないか、通話中で電話がつながらない。そうした状況が頻発していた」(同社)
朝のタクシー利用が増えたのはビジネスマンの早朝出勤など朝の活動量が増えたからだと同社では分析している。
一方、今までの運転手の勤務体系は深夜を重視していたため、早朝4~6時には多くの運転手が仕事を切り上げてしまっていた。
出社時間を遅らせて朝10時までの稼働へとシフトした。もちろん、長年、馴染んだ勤務時間の変更には運転手側の抵抗もある。だが、早朝の需要を取り込めば運転手にとっても収入が増えるなどのメリットを伝え会社側は説得をした。さらには、新人運転手を積極的に新しい「朝シフト」に振り向けた。
朝7~10時の無線配車の売上高は、朝シフト強化前に比べ64パーセント向上した。
同社の取り組みは深夜型の仕事であっても、先入観を捨てて消費者行動の変化を見てみれば、違う時間帯にビジネスチャンスが見出せることを示している。
■訂正履歴
2ページ目、本文中で「2010年12月期の1億2882万円から2016年12月期の1億7178万円へ約30%アップした」としていたのは、正しくは「2010年に比べ、2016年は約5.5%アップした」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2017/9/28 19:30]
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