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成果を上げたマーケティング施策やヒット商品開発が直面した「決断」の真相を追う本特集。「ライオン「クリニカ」売り上げ5割増 異論抑えた決断の裏側」に続く今回は、消費者を巻き込んで共感を引き出す仕掛けや、「予防歯科」という旗印の下、ブレずに突き進んで5年目に突入したブランド再生プロジェクトの「現在地」を探る。

クリニカの広告には、女優の上戸彩を起用。「歯医者さんにほめられる歯に。」がメッセージ

 「予防歯科」を旗印に、2014年に実施したマーケティング方針の大転換によって売り上げが急浮上しているライオンのロングセラーブランド「クリニカ」。予防歯科は、啓発冊子などへの継続投資によって歯科医や行政、流通を巻き込み、一大ムーブメントに発展した。ただ、予防歯科をアピールする“物量”を増やしただけで、自然と消費者が付いてきたわけではない。そこにはもう一つ、消費者の共感を引き出す仕掛けがあった。

 ポイントは、消費者との距離感だ。新生クリニカが打ち出す予防歯科は、メーカーや歯科医師が「上から目線」で強制するものではなく、消費者の隣で、その気持ちに寄り添うもの。クリニカがユーザーと一緒に目指すのは「歯医者さんにほめられる歯」であり、セルフケアに必要なラインアップをそろえ、それをサポートするという立ち位置だ。ブランドマネジャーの横手弘宣氏は、一言で「伴走感」と表現する。

 例えば、クリニカのテレビCMでは、定期健診で歯科医院を訪れた人が歯科医師から口内のチェックを受け、最後に「よく磨けていますよ」と褒められる姿を描いている。実はこれ、初年度は歯科医師に「まだまだですね」と言われながらも、褒められることを目指して定期健診に通う姿を描いていたが、2年目以降にガラリと変えたという。「自己流のセルフケアに自信が持てない人が大半で、それを改善したいという前向きなインサイトがある。そこで、歯科医師のアドバイスを受けながら、自分のケアが上達していく楽しさを印象付けるために、あえてCM内容を変更した」(横手氏)と話す。ともすれば義務的なイメージになりがちな予防歯科を「自ら進んで実践すべきもの」にうまく価値転換したのだ。こうして“無償”の啓発活動でタッチポイントが増えたことも相まって、予防歯科は消費者に広く浸透していった。

 かつて単発のキャンペーンで終わった予防歯科は、社会を巻き込んだマーケティングに大きくかじを切ったことで成功を収めた。クリニカのブランド再生プロジェクトは、予防歯科の宣言をテーマにした初年度の14年から成果を上げ、2年目、3年目と2桁成長を達成。特に“ご祝儀相場”が終わった2年目に用意した新製品は、高濃度フッ素で睡眠中に歯を強くすることを狙った「クリニカアドバンテージ デンタルジェル」と、歯並びの悪い箇所の磨き残しを集中ケアする「同 デンタルタフト」という“意識高い系”の2品だったにもかかわらず、初年度の実績を大きく超えた。

 この2品を見た営業部門からは不安の声も挙がったが、マーケティングチームがブレることはなかった。「2年目の躍進は、予防歯科の普及を推進することで、個々の新製品だけではなく、クリニカのブランド全体の価値が高まる構造にした成果。お客様のケア意識が上がることで、予防歯科の代表ブランドであるクリニカが恩恵を受ける。そうした循環モデルの正しさを本当に確信できたのが2年目だった」と横手氏は振り返る。