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成果を上げたマーケティング施策やヒット商品開発が直面した「決断」の真相を追う本特集。安売りの常態化、人口減少によるマーケットの縮小という“二重苦”にあえいでいたライオンのロングセラーブランド「クリニカ」は、どのようにしてよみがえったのか。まずは、ブランド再生プロジェクトのカギを握るコンセプト「予防歯科」が採用された背景に迫る。そして第2回(10月2日公開)では、消費者の共感を引き出す仕掛けや、新生クリニカの「現在地」をレポートする。

クリニカの現ブランドマネジャー、横手弘宣氏。2014年の大リニューアル時から同ブランドに携わり、16年にライオンで最年少のブランドマネジャーに抜擢された

 誰もが知るロングセラーブランドであるが故、抱えるジレンマはあまりにも底が深い。毎回のようにチラシの目玉商品として扱われ、売り上げは立つものの利益は低水準。いつしか消費者に安売りイメージが根付いてしまう。さらに、急速な人口減少社会に突入した日本で、かつてのように良いものさえ出せば市場が拡大していくわけでもない。

 今、決断しなければ、衰退を待つのみ――。

 この難題に立ち向かい、大掛かりなブランド再生プロジェクトを実行。華麗なる大復活を遂げたのが、オーラルケア首位のライオンが誇る1981年生まれの“アラフォー”ブランド「クリニカ」だ。2014年からのマーケティング施策の抜本改革によって、今や売り上げは、それ以前の1.5倍に急伸(13年比、17年実績)している。

クリニカは14年のブランド刷新以降、2年連続で2桁成長を続け、17年の実績では13年比で1.5倍の売り上げに伸長

 最初の転機は、同社が11年10月に掲げた2020年までの長期計画「Vision2020」。20年度に売上高5000億円、営業利益率10%を目指すというもので、その取り組みの1つとしてクリニカなど重点ブランドに集中投資することが決まった。ただ、当時のクリニカは、特売が常態化し、「家族で使う安いブランド」というイメージが定着。ユーザーの高齢化も進み、ブランドの“老化”に拍車がかかっていた。ここから脱却しようと、クリニカのブランド再生プロジェクトが立ち上がり、14年2月、満を持して全42アイテムを刷新。高機能の「アドバンテージライン」を核とする大リニューアルが行われた。

 単にラインアップを一新しただけではない。このとき、最も重要な「決断」となったのが、ブランド再生の旗印に「予防歯科」という社会的意義を掲げたことだった。予防歯科とは、歯磨きなど個人が日常的に行う「セルフケア」だけではなく、年2回程度の定期健診で歯科医師から指導を受ける「プロケア」との両輪を循環させることで、虫歯がない社会を目指そうというもの。オーラルケア先進国のスウェーデンを例にとると、国民の約7割が定期健診を受けているが、日本では4割未満にとどまっていた。個人のセルフケア意識にも大きな差がある結果、70歳時点での残存歯はスウェーデンが21本なのに対し、日本は16.5本にすぎないという衝撃の事実があった。