実験の話に戻ろう。好きな歌を3曲歌った結果、歌う前に比べて唾液の量は増え、コルチゾールは減った(下グラフ)。気分が明るくなり、「緊張」や「抑うつ」といったネガティブな感情も改善した。
なぜ歌うと唾液が増えるのだろうか。「口の周りの筋肉を使ったというフィジカル面と、歌うことで副交感神経が優位になったというメンタル面、2つの理由が考えられます」と斎藤さんは説明する。
副交感神経は、リラックス状態のときに優位になる。唾液は副交感神経が優位のときによく出て、逆に、交感神経が優位のときにはあまり出なくなる。緊張すると口の中が乾くのは、交感神経が優位になって唾液の量が減るためだ。コルチゾールの減少や気分の変化を見ても、確かに歌うことがストレス解消につながることが確認されたわけだ!
表情筋が動くことで記憶がよみがえる
ここで、「それって歌が好きな人の場合でしょ?」と思った人もいるだろう。好きなことをやればストレスが発散されるのは当たり前だ。歌が苦手な人や、人前で歌うことに逆にストレスを感じる人だって少なくないのでは?
ところが、「歌が好きな人ばかりではありません。この実験では、歌が嫌いな人、うまく歌えなかったという人たちも、同じように唾液が増え、コルチゾールが下がったんです」と斎藤さんは意外な指摘をする。
なぜだろう? 考えてみれば不思議だ。その理由について、斎藤さんは「笑う門には福来たる」という言葉を出して推測する。
「楽しくないときでも、笑顔を作ることで楽しい気分になる。それは笑って楽しかったときの記憶がよみがえるためです。歌っているときは顔の表情筋が動くでしょう。その結果、幸せだった記憶や楽しかった記憶がよみがえり、コルチゾールが下がるのではないかと思われます」(斎藤さん)
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