「晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」「再建に必要な資産まで売却させ、債権として回収してしまう」──。預金者から集めたお金を、事業性を判断した上で貸付という形で産業界に送り出し、経済発展に寄与することが使命のはずの銀行。だが、本当にそれが果たせているのかという批判は多い。その問いが最も端的に突きつけられるのが、経営危機に陥った企業の再建フェーズだ。

 企業の緊急時に発動する、日本経済を長年支えてきた仕組みが問われている。

 「銀行管理」。企業が苦境に陥った際に、債権者である銀行が取締役などのポジションに人材を送り込み、経営を支配下におくことを指す言葉だ。過去にはダイエーや三洋電機などが、典型例として挙げられる。近年の代表例はシャープだ。2年連続の巨額赤字に沈んだ後、2013年にみずほフィナンシャルグループと三菱UFJフィナンシャル・グループが、それぞれ取締役を送り込んだことで事実上の銀行管理下に入ったが再建を果たせなかった。それから鴻海精密工業に買収されるまで3年以上を要している。

2015年5月、事実上銀行管理下に置かれていたシャープは再建に向けた中期経営計画を打ち出したが…。(写真:Natsuki Sakai/アフロ)
2015年5月、事実上銀行管理下に置かれていたシャープは再建に向けた中期経営計画を打ち出したが…。(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

利益相反の構図も代替策がなかった

 銀行管理という形態はそもそも、ある重大な矛盾をはらむ。銀行からきた取締役は、当然のことながら出身行の債権回収を優先する。だが、取締役の役目は、企業価値向上を希望する株主の利益を代表することだ。すなわち、根本的に利益相反の構図にあるのだ。

 それでも、銀行管理が折に触れて発動されてきたのには、事情がある。株式持ち合いなどにより、日本企業の多くで株主によるガバナンスが事実上機能してこなかったからだ。企業が債務不履行のリスクを抱えるまでに経営が悪化する背景には、経営規律や能力に問題があった可能性が高い。そのため、強制的に外部監視者が送り込まれることには意味があった。

 利益相反の構造は望ましくないが、弊害が発生することが防げるなら直ちに問題とはいえない。企業と密接な関係を持つメーンバンクは、債権回収だけでなく再建にも目配りするであろうという理解のもとに、社会的にも不振企業を管理下に置くことが容認されてきた。問題は現在の銀行の姿勢が、債務回収に偏りすぎていることにある。その後の企業の成長する姿を描く前に、バランスシートを改善させることに主眼が置かれるため、資産の切り売りが加速しがちだ。

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