長期化する低金利政策、伸びない銀行融資、さらには金融とIT(情報技術)が融合したフィンテックの台頭など、銀行を取り巻く環境は大きく変わった。日経ビジネスは9月18日号で「もう銀行はいらない」と題した特集を掲載し、その実相に迫った。

 いま訪れているのは「静かな危機」。バブル崩壊やリーマンショックのような金融危機を乗り越えてきた銀行業界だが、足元の状況はそれらの危機とは異質で、より深刻だ。その背景について、PwCインターナショナルの田中正明シニア・グローバル・アドバイザーに話を聞いた。田中氏は三菱UFJフィナンシャル・グループの元副社長で、現在は金融庁参与なども務める。国内外の銀行の内情に精通する実務家は、業界の現状について「生活習慣病にかかった患者のようだ」と指摘する。(田中氏のインタビュー全文は、日経ビジネス特集「使命はどこへいった 問われる存在意義(有料会員限定)に掲載)

PwCインターナショナルの田中正明シニア・グローバル・アドバイザー
元三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)副社長。MUFG傘下の米ユニオンバンク頭取兼CEO(最高経営責任者)や、米モルガン・スタンレー取締役なども務めた(写真:北山宏一)

 「銀行の国内事業の現状を一言で表現するなら、生活習慣病にかかった患者のようだ。見た目は健康だが、高血圧や糖尿病などを患っており、放置するといずれ、脳血管疾患や心臓病になりかねない。銀行の三大収益源である金利収入、手数料収入、トレーディング収入がいずれもじわじわと減少し続けており、生活習慣病が進行する様子と似ている。このままだと、今はまだ良くても、ある日、脳梗塞を起こしたように銀行が機能しなくなる懸念がある」

 直近の銀行の業績はそう悪くはない。例えば3メガバンクは年間で5000億~1兆円規模の純利益を計上している。しかし、その収益構造を見ると、マイナス金利によって貸し出しの利息収入などで構成される資金利益が大きく減り、長らく銀行の収益を下支えしてきた国債運用益も激減している。

 田中氏が指摘する通り、歴史的な水準まで落ち込んだ低金利などが、銀行の収益を圧迫しているのだ。銀行は焦げ付きのリスクを避けようとするあまり、リスクの小さい大企業向け融資に集中して金利のたたき合いに発展したり、余った資金を日銀の当座預金に積み上げたりしている。従来型のビジネスモデルが成り立たなくなっていることは、火を見るより明らかだ。

「健全な縮小均衡は悪くない」

 リーマンショック後の2009年頃から、各国の中央銀行はこぞって金融緩和に踏み切った。銀行の扱う商品はとどのつまり「お金」。緩和競争による金利の低下は、商品としての「お金」がコモディティー化していると言い換えることができるのかもしれない。

 「歴史的な視点に立って考えれば、扱う商品がコモディティー化した産業で企業再編が進むのは必然的な流れだった。鉄鋼業界や化学業界などがその例だ。その流れを後押ししたのはかつての銀行だった。もし、かつての銀行がいれば、今の銀行に対し、コスト構造にもっと切り込み、必要に応じて再編すべきだと指導するだろう。健全な縮小均衡を進めることは決して悪いことではない」

 今よりも金利が高く、日本経済の成長で企業の資金需要が強かった時代には、とにかく預金をたくさん集めさえすれば、それだけ収益を増やすことができた。しかし足元の状況下では、集めた預金を貸し出したり運用したりしようとしても、リスクに見合うだけのリターンが見込みにくい。だからこそ、田中氏は闇雲に規模を追いかけるのではなく、スリム化を進めて高収益体質に生まれ変わる必要性を説いている。