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新事業の成功率は1割程度

玉塚:成功率などは聞いていますか。

新事業の黒字化状況を尋ねたところ、11.4%が成功という答えでした。「総売上高の過半を黒字の新事業で占めた」という回答が1.6%、「既存事業に並ぶ稼ぎ頭を創出できた」が3.4%、「黒字になった新事業が複数ある」が6.4%、これらを足すと11.4%になります。

玉塚:1割ですか。実態はもっと厳しいのではないか、という印象を持っていますが。

新事業のスタート状況を別途尋ねました。「スタートできなかった件数の方が多い」が30.5%、「ほとんどがスタートできなかった」が27.1%、合わせて6割の回答者がそもそものスタート段階から苦しんでいます。

玉塚:そちらの数字は「そうだろうな」と思います。成功率といっても、何をどう数えるか、把握が難しいかもしれませんね。神武さん、システムデザインの観点から、新事業の取り組みにどのような示唆がありますか。

神武:新事業も、何らかの目的を達成するために複数の要素を組み合わせたものとそのつながりというシステムの定義に当てはまりますから、システムデザインのアプローチを適用できます。

 システムデザインとは、システムを成功裏に実現させるために複数の分野を横断して俯瞰的かつ緻密に物事を理解し、システムのコンセプト立案から設計、具現化、運用、終了までを視野に入れて考え、目的を明確にし、それを成し遂げるシステムを構想し、必要になる複数の要素を組み合わせた構造を実現することです。そのために、「木を見て森を見る。森を見て木を見る」という視点が重要です。

 まず、構想、ビジョンと言ってもよいですが、どういう新事業を何のために始めるのか、数年後どのような姿になりたいのか、といったことを考えます。新事業に関わるステークホルダー(利害関係者)が共有でき、「やってみよう」と思えるシナリオにまとめることが必要です。このあたりについては前回もお話ししました。

前回記事:慶應大学ラグビー部が「法人化」した理由

玉塚:ビジョンやシナリオをきちんとつくる、それは新事業に限らず、すべてのプロジェクトに欠かせませんね。

神武:はい。さらに新事業の場合、前例がないことをするわけですから「レディネス(Readiness)」を考慮することが重要です。

 レディネスは準備ができていること、成熟度とご理解ください。その度合いを示す指標としてレディネスレベルというものがあります。システムの構成要素がどのような成熟段階にあるかを定量的に示す方法です。システムの中のどの要素が前例のないもの、もしくは、既に何度も利用されて成熟したものなのかを明確にし、システム実現における未知のところやリスクがどこにあるのかを可視化できます。

 テクノロジーについては、「テクノロジー・レディネスレベル(Technology Readiness Level)」と言い、略してTRLと呼んだりします。TRLはロケットや人工衛星、国際宇宙ステーションなど宇宙分野のプロジェクトで使われてきました。

 「新しく開発するロケットのこの部分は従来から使われてきたテクノロジーで実現するから成熟度が高い」。「一方、こちらの部分には過去に使われたことがないテクノロジーを導入するから成熟度が低い」。こんな風に見極めていきます。

 成熟度が低いテクノロジーにはリスクがありますので、リスクが現実になったときの対応をあらかじめ考えます。QCD(品質・コスト・納期)にR、つまりリスクを考慮に加え、QCDRのバランスをとるようにするわけです。

玉塚:定量的に示すとのことですが具体的にはどうするのでしょうか。

神武:TRLについてもう少し詳しくお話しすると、9つのレベルで構成されています。「原理的な可能性が示されている」のはレベル1。「実際の運用で性能まで確認されている」のはレベル9。「技術的な要素を含んだ実証モデルが実際の使用環境に近い条件のもとで試験されている」のはレベル5。こういう風にレベルを判定します。