全6474文字

『システムデザインを学ぼう』では、ローソンやファーストリテイリングの社長を歴任した玉塚元一デジタルハーツホールディングス社長が、神武直彦慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授に「システムデザイン」の勘所を問うていく。 企業も事業も製品やサービスもすべて、「相互に作用する要素を組み合わせたシステム」である。システムデザインとは、目的を成し遂げるために適切な諸要素を組み合わせることを指す。 対話の第1回で玉塚氏は「自分が取り組むシステムは何か、どうつくっていくか、関係者は誰か、といったことを日頃から考える。これは経営者にとっても現場の要所を担うリーダーにとっても欠かせない」と指摘した。

第1回:慶應大学ラグビー部が「法人化」した理由

第2回、第3回では新事業の創出にシステムデザインをどう生かすかについて話し合った。

第2回:失敗続きの事業創出、鍵はレディネス

第3回:プロマネだけでは新事業を成功できない

第4回はシステムをデザインできる人をどう育てていくかについて両氏が語り合う。

(進行役は日経BP総研の谷島宣之上席研究員、写真撮影=北山宏一)

玉塚 元一
旭硝子などを経て、2002年ファーストリテイリング代表取締役社長兼 COOに就任。2005年9月に企業再生・事業の成長を手がける企業リヴァンプを創業。ローソン社長、会長CEOを経て2017年6月、デジタル製品のテスト及びQAを担ううデジタルハーツホールディングス代表取締役社長CEOに就任。
神武 直彦
宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構・JAXA)でH-ⅡAロケットの研究開発と打ち上げに従事。欧州宇宙機関(ESA)研究員を経て、JAXA主任開発員。2009年度より慶應義塾大学准教授。2018年度より現職。社会技術システムのデザインやマネジメントの教育研究に従事。

奇跡の南アフリカ戦から学ぶ

「システムデザインができる人材の育成について話そう」と前回の最後に玉塚社長から提案がありました。前提として今後求められる組織像や人材像をどうとらえていますか。

玉塚:ラガーマンであるせいか、ついラグビーを引き合いに出してしまいますが、ラグビーのチームが一つの理想形ではないかと思っています。

 ラグビーの場合、ゲームをどう進めていくかは、現場にいるチームのキャプテンがその場その場で考え決めていきます。メンバー15人は全員マルチプレーヤーでタックルをしたりボールを持ったり、状況に応じて臨機応変に役割を変えていく。

 かつてのフォワードはもっぱらスクラム専門でしたが、今ではフォワードもボールを持ちます。15人のシステムのパフォーマンスを上げるために、誰がボールを持ってもよいようにラグビーが進化したわけです。

 もちろん、どういうチームにするかというビジョンはヘッドコーチが示しますし、試合の直前までメンバーに作戦をしっかり刷り込みます。しかし、試合が始まった後は、ヘッドコーチは選手に直接指示を出せないため、キャプテンをはじめとするメンバーに判断が任されます。

 2015年のラグビーワールドカップイングランド大会で日本代表が強豪の南アフリカを破り、奇跡の勝利と話題になりましたね。最後のワンプレイのとき、日本代表のリーチ・マイケル キャプテンは一気に逆転しようとスクラムを選び、見事に成功させました。

 ところがスクラムを選んだ直後、観客席にいたエディー・ジョーンズ ヘッドコーチは椅子を蹴飛ばしたそうです。ヘッドコーチはペナルティキックを選び、同点にすることを期待していたからです。

 企業の場合でも、進む方向や戦略は経営トップや事業部門の幹部が示すものの、実際の活動は現場がその都度判断して進めていく。「私の担当はここまで」とは言わず、必要に応じて新たな役割を担い、マルチプレイをする。これが望ましい姿ではないでしょうか。

ラグビーのヘッドコーチはなぜ選手に直接指示を出せないのでしょう。

玉塚:その理由の1つとして、指示を出すタイミングが難しいという点があげられます。ラグビーの場合、アメリカンフットボールや野球とは異なり、一度試合が始まると好守交替などでゲームがはっきり途切れることがないからです。

 もう1つの理由は、ラグビーがキャプテンシーを非常に重んじるスポーツということです。試合中の意思決定はキャプテンに任せる。これが伝統的なスタイルとして確立されています。

ヘッドコーチがトランシーバを使ってベンチに指示を出しているという話も聞きます。企業でも電子メールや営業支援システムなどを使い、いわゆるマイクロマネジメントをしたがる経営幹部がいるようですが。

玉塚:現場にいるのは選手であり、社員です。ツールを使って情報を集めてみても、その場にいない経営トップや幹部に正しい判断が下せるのかというと難しいでしょう。