がん検診を受けてもらうための試行錯誤

溝田:ナッジでは、闇雲に値下げをしても、その理由に納得しないと人は反応しない、ということが分かっています。

 そこで、「今年度はこの年齢の人に助成が出ます。だから今は安いんです」と根拠を示すようにしました。

 また一般に、「自治体の検診は安いから質の高いものではない」というイメージがあるので、「実際は高価なものが助成のおかげで安く受けられます」と伝える目的もあります。

近藤:確かに、実際は高価なものなら、受けなければ損だと思います。ただ「今年は助成があります」というメッセージは、毎年同じ文面で送るのですか。

溝田:乳がん検診の助成は2年に1回ですので、2年に1回ですね。

近藤:今年受けなかった人は、翌年は助成を受けられないのでしょうか。もし翌年受ける気になったのなら、受けられるといいなと思うのですが。

 というのは、今年は助成がないから来年にしようと逆の方向にナッジしてしまうのは良くないと思うので。

溝田:基本的に、指定された年に受診しないと、翌年は対象外なので個別の通知は届かず、「今年受けないで来年受けよう」ということにはなりません。

 前年度に受けなかった場合も、自分で調べて問い合わせれば、大体は受けさせてもらえると思いますが、自治体によっては助成が受けられない場合もあります。

近藤:自治体によって、予算の都合などがあるわけですね。このリーフレットや圧着はがきを使って、受診率は上がりましたか。

溝田:自治体の受診率を確認すると、これらを使うと受診率は大体、3倍から5倍に上がります。

 ただこのリーフレットや圧着はがきを使用したのに受診率が上がらないこともありました。

 なぜ上がらなかったのか理由を調べてみると、例えばものすごく小さなサイズで印刷したので、文字が小さくなってほとんど読めなかったとか、受診の受け皿を用意しておらず申し込みは増えたのに受診できなかったとか、リーフレットが届いてすぐに申し込もうとしたのに申込みの受付は3カ月先になっていて申込みを忘れてしまったとか、などという事情が分かってきました。

 そこで、うまくいかなかった事例をもとに効果的な使い方をまとめてマニュアルをつくるなど、より効果が出るように働きかけています。

近藤:申し込んだのに受けられませんという事態は、あっていいのでしょうか。

溝田:いいかどうかは別にして、現実にはあります。

 日程が限られていて都合がつかないこともありますし、予算が限られている場合もあります。これまでの受診率の実績で予算を組んでいる自治体では、リーフレットの効果で急に例年よりも申し込みが増えると、キャパシティを広げるのが難しいようです。

 そのため、リーフレットや圧着はがきを使用する自治体には、予想以上にたくさんの申込みが発生することもあり得るので、受け皿も十分確保してくださいとお願いしています。

 また今年度の実績をもって翌年度のがん検診予算の増額を行って、今年度どうしても受け付けられなかった方が翌年度受けられるようにしてくださいと伝えています。

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