ストレスや食品添加物でがんになる?

近藤:ところで、ピロリ菌の感染が胃がんの原因になることは、けっこう有名ですよね。ほかにも煙草とかお酒ががんの原因になるとも言われています。そもそもなぜがんになるのか。統計的に分かっていることを教えていただけますか。
溝田:最新の統計では、日本人の男性のがんのうち、53.3%は原因が分かっていて、予防可能とされています。
そのうち約半分が喫煙で、あとは肝炎ウイルスなどのウイルスと、ピロリ菌などの細菌、飲酒。次に野菜不足や食塩の摂りすぎなど食生活の乱れが入ってきます。
女性では、予防可能なのは約3割です。女性は一番にウイルスと細菌が来て、喫煙、飲酒、肥満などが続きます。
近藤:一般的には、ストレスや食品添加物でがんになると言われていますが、どうですか。定量化しにくいので分からないのでしょうか。
溝田:ストレスは科学的エビデンスがないため、がんの原因になるとは言えません。食品添加物についても、いまはエビデンスがあるものはありません。
近藤:喫煙はがんの原因としてダントツですよね。女性では喫煙が2番目なのは、喫煙者が少ないせいでしょうか。喫煙者のようにリスクが高い人は、より頻繁に検診を受けるべきですか。
溝田:リスクに関係なく、がん検診はすべての人が受けるべきものだと考えています。生活習慣が原因だと分かっているのは男性が約5割、女性は約3割にすぎません。つまり、リスクが低いからといって、がんにならないとは限らないのです。
近藤:なるほど。ただ、例えば血縁者に乳がんが多いなど、遺伝性の乳がんが疑われるハイリスクの人の場合、主治医と相談して検査の頻度を上げたり、健診を受ける年齢を早めたりするといったことはあってもいいと思います。
溝田:がん検診については、リスクが低くても、指針に定められた一定期間ごとに検診を受けることが推奨されます。
検診を受けない人に対してリスクの高さを伝えてがん検診を勧めればいいという声もありますが、これは難しいところがあるんです。
禁煙してもらおうと「このくらいリスクが高いんですよ」と伝えると、逆に「あ、高いといってもこの程度なんだ。100%がんになるわけじゃないんだ」と、かえって逆の行動をとられることがあるんです。
近藤:すべての人にがん検診受診を勧めるためのいい方法論は、なかなかないんですね。
溝田先生はがん検診の受診勧奨に行動科学やマーケティングリサーチの手法を取り入れていると聞きました。次回はそのあたりのお話をうかがいたいと思います。
(後編に続く)
日経ビジネスオンラインで好評の本連載が1冊の書籍になりました。
書名は『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』。
あなたは次のような「がん検診」の新しい常識に正しく答えられますか?
- 肺がん検診、喫煙者ならば胸部レントゲン検査と、「〇〇」の検査を併用すべき
- たった数年で前立腺がんの患者数が急増!?その背景にあった「〇〇〇検診」の影響
- 胃がん検診、バリウムと胃カメラなら胃カメラに軍配! 理由は「〇〇がん」も検査できるから
- 「大量に飲める人」と「弱いけれど少し飲める人」、肝臓がんのリスクが高いのはどっち?
- ピロリ菌に感染する人が減ったことで、逆に「〇〇がん」のリスクは高まっている!
- 大腸がんを調べる大腸カメラ、キツイのは検査よりその前の大量の〇〇だった
- 検診を受けても見逃さないために! 乳がん検診はマンモグラフィーに〇〇〇を追加せよ
本書では、現在も活動を続ける現役医師が、特技であるマンガを生かして、「日本一まっとうな」がん検診の受け方と使い方を解説します。
肺がんや胃がん、大腸がんなど、日本人にとってメジャーな「がん」を見つける方法から、男性ならば誰もが気になる前立腺がんや前立腺肥大、ED(勃起不全)、若い女性にも広がっている乳がんや子宮頚がんについて——。
日本人に多い10のがんを取り上げて、正しいがん検診の受け方、使い方を紹介。同時に、最近取り沙汰されることの多い「PET検診」や、少量の血液や尿などからがんを見つけるとうたう「血液がん検診」など、「がん検診」をめぐる最新のテーマについても、マンガを用いながら、分かりやすく解説しています。
一冊読めば、あなたが「がん」や「がん検診」の怪しい情報に惑わされることは、もうありません。
Powered by リゾーム?