前回から6回にわたって、本連載「医療格差は人生格差」の特別版として対談記事を掲載しています。対談1回目に登場するのは大阪大学大学院・医学系研究科・病理学教授の仲野徹先生だ。仲野先生は2017年に書籍『こわいもの知らずの病理学講義』を上梓。一般の人にとってはあまりなじみのない病理学について、基礎から分かりやすく解説している。本書は7万部を超えるベストセラーとなり、この12月には『(あまり)病気をしない暮らし』が発売されたばかりだ。
一方、本連載の著者、近藤慎太郎医師はこの夏に書籍『医者がマンガで教える日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』を発売。「がん検診」についてマンガを活用しながら分かりやすく説明している。
病理学とがん検診。一見するとあまり共通点はないようにも見えるが、それぞれの本が世に出た背景には、2人の医師が抱くある課題意識があった。(今回はその後編)

対談の前編「医者と患者の『溝』、将来はAIが埋めてくれる?」でもうかがいましたが、どうして医療を巡る情報は極端な情報が多いのでしょうか。
仲野先生(以下、仲野):私の本(『こわいもの知らずの病理学講義』)でも書きましたが、ちょっとした知識があれば、トンデモ情報の類いはウソだと分かります。
理屈が分かっていれば見抜けるようになるわけです。その理屈が分かるくらいのリテラシーは、やっぱり必要になります。
近藤医師(以下、近藤):医師にしてみれば、インフォームドコンセントは自分を守る意味もあります。きちんと説明をして、患者さんには納得して同意書にサインをしてもらわないといけません。
その説明を十分に理解してもらえないのは、やっぱりとても不幸なことだと思うんです。この食い違いによって問題が生じてしまうかもしれませんし。
そのためにも最低限の枠組みというか、医師の話をある程度理解できるだけの知識は必要になる。それが自分を守ることにもなりますから。
そこで最近私が思うのは、大人を啓蒙するのはものすごく難しい。だから小さい頃から正しい情報を伝えていかなくちゃいけないんじゃないかということです。
仲野:まったく同意見ですね。僕もずっと前から、中学生はちょっと難しいかもしれないけど、高校くらいで医学の基礎を教えないといけないと言っています。
高校生くらいで教えると、その子たちが病気になるのは40代、50代。つまり20年、30年先です。その頃はさらに時代が進んでいて、ゲノム解析からわかることも多くなっているはずです。
これを言うとすごく嫌がる人もいますが、僕自身は、医学はもうそれほど進歩しないんじゃないかと思っています。もちろん新しい薬が出るとか、新しいデバイスが出るとか、そういう進歩はあるはずです。
けれど、概念的に天地がひっくり返るような発見は、仮にあったとしてもそれほど多くはないんじゃないかと。これを言うと、研究者としてあるまじき態度と言われますが(笑)。
近藤:確かに仲野先生がおっしゃるように、ゲノムとかエピジェネティクスとか、それぞれの枠組みは大体分かっていて、あとは「これができればいいな」というアイデアが形になっていくということだと思います。
全然違う方向から何かが発見される、ということはあまりないのかもしれませんね。
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