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AIがインフォームドコンセントをする時代に?

仲野:私たちが医学生の頃は、がんについても今のようによく効く薬があまりありませんでした。そして種類も少なかった。つまり治療の選択肢もそれだけ限られていたわけです。

 けれど今は薬の選択肢そのものが多い。それぞれの専門的知識がないと太刀打ちできません。がんはまだ分かりやすい方ですが、糖尿病に至っては、担当する医師によっても意見が違ったりします。そしてどの薬をファーストチョイスにしたらいいのかというのも分からない。

近藤:糖尿病も一度にどばっと新薬が出ましたから把握できない状況なのでしょうね。多分、どの医師もある意味ではすべてを知らないのかもしれません。どの薬とどの薬の臨床試験がどうだった、とすべての情報がそろうわけでもありませんから。

仲野:私が本を書く時に悩んだのは、「どこから書いたらいいか」ということです。どれくらい基礎的なことから書いていくべきか、と。そういった状況の中で、私が仮想読者として設定したのは近所のおばちゃんでした。

 うちの近所はすごい下町なんですが、学歴は高くはないけれど、知恵深い人が結構いてます。話をしたら分かってくれるおばちゃんやおっちゃんが割と多いんです。そういうおばちゃんやおっちゃんに向けて書いたつもりですが、それでもやっぱりどこから詳しく書いていいか、どのレベルから書いていいのかと迷いました。

 あんまり簡単なことから始めると本が分厚くなりすぎる。「これくらいでいいかな」と思って書いたつもりですが、それでもまだちょっと難しいと言われるから、どうしたらいいのかなと思います。近藤先生の本はものすごく読みやすいですよね。特にマンガが読みやすい。

近藤:私も書いていて、「これはマンガじゃないと表現できないな」と感じるところは何カ所かありました。そういう意味では、やはり視認することのメリットは大きいのだと思います。

この先も医療技術の進歩は止まりません。治療方法や新薬など、医師にとっても患者にとっても選択肢はさらに増えていくはずです。複雑になる医療の中で、普通の人は医療情報とどのように付き合えばいいのでしょうか。

仲野:先ほども少し触れましたが、インフォームドコンセントの時に心の底から一人ひとりの患者さんに納得してもらうように話をするとなると、現場の医師はなかなか時間が足りないでしょう。患者さんの理解度によっても説明の方法は異なるでしょうし、それこそ相手によってどこから説明していいか分からない状況だと思います。

 僕の本を読んだ看護師さんの一人が言っていたのは、医師のインフォームドコンセントが終わった後で患者さんがよく「さっき先生は何を言うてはりましたん?」と聞かれるそうなんです。

 患者さんにしてみれば、お医者さんはものすごく忙しそうにしているから聞きにくい。

 けれど看護師さんだったら聞きやすいから、「先生は何を言ったのか」と後で質問されるそうです。けれど看護師さんだって、ちょっと年配の人になると、がんの分子生物学とかは習っていません。だから僕の本を読んで勉強になりました、と感謝されたんです。ありがたいことです。

 一般の人も同じように、病気のことは習ったことがありません。リテラシーの低さが問題と言いましたが、ある意味、知らないのは当然と言えば当然なんです。

 いずれはインフォームドコンセントのように患者さんにしっかり理解してもらう必要のあることは、医師じゃなくてAI(人工知能)が教えるようになったらいいんじゃないかと思っています。

 それぞれの患者さんに応じて、何も知らない人には分子生物学の基礎から教えていくようになる。患者さんも入院中は時間がありますし、もしかするとしっかりと病状を理解できるようになるかもしれません。10年後くらいには、そんな風に医療現場が変わっているかもしれませんね。