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「がん」といったって千差万別

近藤:現実には、「がん」という病気一つとってみても千差万別です。がんのできる臓器によって違うこともあるし、同じ臓器のがんでもどの遺伝子に異常があるかによって違います。

 どのがんも、本来はそれぞれが個別のものです。それなのに、「あの人は○○がんで死なはったから、今度の△△さんもあかんな」とか近所のおっちゃん・おばちゃんなんかは、そんな感じで話します。

近藤:医者の側も、分かりやすく説明することに対するインセンティブが希薄ですよね。仲野先生のように本を出して啓蒙するとか、そういう活動に興味を持つ医師は極めて少ない。

仲野:えらい先生は、大体みんな専門家向けの医学書しか書かないですからね。だから医学関係の本は一般の人には難しすぎてしまう。僕の本が売れたのは基礎的な知識を知りたい人がいたからなのだという気はしています。

7万部を超えるベストセラーとなった仲野徹先生著『こわいもの知らずの病理学講義』

『こわいもの知らずの病理学講義』を読んだ読者からはどんな声が寄せられていますか。

仲野:分かりやすく書いたつもりでしたが、それでもまだ難しいと言われています。

 ただ、このレベルで難しいと言われると現場の医師はインフォームドコンセントなんかできてるはずがないだろうという気がします。

 見かけ上は患者さんが納得して決断したようだけれど、深いところで患者さんは納得できていないんじゃないかと。

 薬の選び方一つとっても、がんの場合、この本に書いたくらいの知識がないと、患者さんはちゃんと考えて自分で選べない時代になったと思います。

 この本を読んで「難しい」とおっしゃる人がたくさんおられるという時点で、日本のインフォームドコンセントは、もしかしたらかなり形式的にすぎないのかもしれないという気がしてるわけです。

 やはり本当の意味で患者さんが自分で判断するには、それなりの知識が必要になりますから。

患者側に十分な知識がないというのは、医学が複雑になった結果なのでしょうか。それとも、そもそも世の中の医学リテラシーが低いからなのでしょうか。

仲野:両方でしょうけれど、リテラシーの低さの方が問題ではないでしょうか。一方で医療法の選択肢も膨大になっています。その上、医療者側がそのすべてを把握しているとも限りませんから。

近藤:実は私も、『医師がマンガで教える日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』を執筆するために調べていく中で、初めて知ったことがたくさんありました。

 仲野先生は本の中で何度か「本当は医学のロジックは簡単ですよ」と触れています。まさにこのロジックを教えることがとても大事なのだと思いました。

仲野:医学は進歩しているけれど、それぞれの医師にすべての新しい情報が入ってくるわけではありません。私自身、恥ずかしながら、執筆中にちょっと調べてみて、「あーっ」と思ったことが何度かありました。気を付けないといけないのは、1回覚えるとそのままの昔の知識で定着してしまっているということです。

近藤:そうですね。医学はどうしても細分化していく流れが止められません。どんどんと細かくなっていって、医師がそれをすべて把握することは多分、無理だと思います。

本連載を1冊の本にまとめた近藤慎太郎医師著『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』