12月に入り、忘年会シーズンがやってきました。食べて、飲んで、騒いで、1年の憂さを晴らそうという時期に水を差すようで大変恐縮ですが、一応、頭の片隅に入れておいた方がいい情報をお伝えしておこうと思います。
それは、アルコールがもたらす人体への影響についてです。
古くからアルコールは「百薬の長」と言われてきました。一方で『徒然草』には、「百薬の長とはいへど、万の病は酒よりこそ起れ。憂忘るといへど、酔ひたる人ぞ、過ぎにし憂さをも思ひ出でて泣くめる。」という一節もあります。
アルコールは気分をリラックスさせたり、楽しくさせたりしますが、量が多くなると絶望感、孤独感、憂うつ気分を増強する作用も持っています。まさに、吉田兼好のいう通りです。
事実、大量飲酒者は自殺する傾向が高いことが報告されています(自殺するような悩みを抱えている人が、大量飲酒する可能性もありますが)。
いずれにしても、自殺直前には30~40%の人が飲酒をしています。アルコールは冷静な判断力を失わせるので、自殺の引き金になっている可能性は否定できないでしょう。
アルコールで楽しくなるのも、辛い思いをするのも、飲む人次第。いくら「百薬の長」と言っても、それは適量を守った“良いお酒”であることが前提なのです。そして適量を超えて飲酒した場合、心身ともに様々な影響が出てきます。その影響の幅の広さは、もしかするとタバコ以上かもしれません。
ではアルコールが引き起こす問題にはどんなものがあるでしょうか。まずは「社会的な問題」と「身体的な問題」に大別できます。後者は次回に解説して、今回は社会的な問題について、説明しましょう。
アルコールが引き起こす社会的な問題としては、①人間関係や仕事に関わるトラブル、
②飲酒運転、③アルコール依存症(特に貧困やドメスティック・バイオレンス、虐待など)などが挙げられます。
①は多かれ少なかれ、誰しも身に覚えがあるのではないでしょうか。酔っぱらって、「不用意な発言や行動で相手を不快にさせてしまった」「大切な書類を失くしてしまった」「何をしたのか記憶がない」というのはよく聞く話です。
そういった経験を糧にして自分を律することができればいいのですが、同じことを何度も繰り返してしまう人もいます。
そもそも酔っぱらうこと、つまり「酩酊」は、「単純酩酊」と「異常酩酊」に分けられます。そして粗暴な行動や記憶障害は「異常酩酊」に分類されます。
「異常酩酊」するあなたは「アルコールに強くない」
異常酩酊をする人は、「自分はアルコールに強い」と思っている人が多いように見受けられますが、本当にアルコールに強ければ異常酩酊は起こしません。
つまり、アルコールによるトラブルを起こしやすい人は「これは異常酩酊なんだ。自分はアルコールに強くないんだ」という認識の転換が、まずは必要なのです。そして周囲の助けも借りながら、自分の酒量を再評価するようにしましょう。
次に②の飲酒運転についてです。
飲酒運転に対して厳罰化が進んでいることは、皆さんご存知の通りです。過去にはいたましい事件がいくつも起きて社会問題にもなりました。警察庁のサイトによれば、飲酒別死亡事故件数は減少傾向にはあるものの、その減少ペースは鈍化しています。なぜ減らないのでしょうか。
実は②の飲酒運転には、③のアルコール依存症の人々が少なからず含まれていることが指摘されています。つまりあくまで依存症なので、厳罰化されようが人生が破綻しようが、飲酒自体がやめられないのです。
厳罰化の流れは止めようもないと思いますが、罰するだけでは限界があります。アルコール依存症に対するさらなる医学的、政策的なアプローチが必要とされています。
アルコール依存症は非常に広大かつ重層的なテーマなので、今回はこれ以上踏み込まず、国立病院機構久里浜医療センターのサイトに掲載されている「依存症専門病院リスト」を掲載するに留めます。ご参照ください。
さて、場合によってはそんな社会的なリスクも伴う飲酒ですが、どれぐらいが適量なのでしょうか?マンガで解説いたします。
【参考文献】
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターHP
日本アルコール関連問題学会HP
健康日本21
厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット
国立研究開発法人 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 予防研究グループHP
Holman CD, et al. Meta-analysis of alcohol and all-cause mortality: a validation of NHMRC recommendations. Med J Aust. 1996;164:141-5.
Tsugane S, et al. Alcohol consumption and all-cause and cancer mortality among middle-aged Japanese men: seven-year follow-up of the JPHC study Cohort I. Japan Public Health Center. Am J Epidemiol. 1999;150:1201-7.
Stockwell T, et al. Do "Moderate" Drinkers Have Reduced Mortality Risk? A Systematic Review and Meta-Analysis of Alcohol Consumption and All-Cause Mortality. J Stud Alcohol Drugs. 2016;77:185-98.
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