前立腺肥大、薬の選び方次第では射精障害に?
前立腺肥大の治療は勃起障害や男性型脱毛症にも影響が
この連載では過去2回ほど、男性のがんの中でも患者数が非常に多い前立腺がんについて解説してきました。この前立腺がんには負けず劣らずの身近な病気なのが、前立腺肥大でしょう。
どれぐらい身近かというと、40歳代で2%、50歳代で2%、60歳代で6%、70歳代で12%の人が、前立腺肥大を持っていると推測されています。年齢を重ねると徐々に患者数が増えることから分かるように、前立腺肥大は年齢とともに進行していく病気です。
上の図の通り、前立腺は尿道をグルリと取り囲んでいます。前立腺が肥大すると、尿道が圧迫されて尿の出が悪くなってしまいます。
「最近、尿のキレがいまいち」「就寝中にトイレに行きたくて起きてしまう」――。こんな症状がある場合は、前立腺肥大の可能性があります。
前立腺肥大は、原則的に命に関わる病気ではありません。病状が本当に進行して尿がほとんど出なくなってしまえば、重い尿路感染症や腎不全を引き起こす可能性もありますが、通常はそこまで放置することはないはずです(ただし高齢で、意思の疎通が困難な人は尿量に留意が必要です)。
また「前立腺肥大」と「前立腺がん」は、いかにも関係があるように見えますが、原則的に別の疾患で、前立腺肥大が前立腺がんのリスクを上げるわけもありません。むしろ、エビデンス(科学的な証拠)はないものの、前立腺肥大がある人には前立腺がんが少ないという印象を持っている泌尿器科医が多いようです。
ただし症状が似ているので、どうせ前立腺肥大だろうと思っていたら前立腺がんだったというケースは十分にあり得ます。排尿に不安がある場合は、安易に自分で判断せず、医療機関を受診することが大切です。
純粋な前立腺肥大で死亡することはまずありませんが、排尿障害があったり、そのために睡眠が十分に取れなかったりすれば、QOL(Quality of life=生活の質)が著しく低下してしまいます。自分が罹患する可能性が高い病気だからこそ、やはりうまく遠ざける工夫が必要なのです。
性行為と前立腺肥大の関係は?
何が前立腺肥大を引き起こす原因なのかは、まだはっきりと分かっていません。ただ、肥満や高血圧、高血糖、脂質異常症といった「メタボリックシンドローム」に合併しやすいことが分かっています。
また男性ホルモンであるテストステロンは、前立腺肥大のリスク因子になります。テストステロンは、少なすぎるとED(勃起障害)や筋力低下、メタボリックシンドローム、うつ病などのリスクが上昇し、多すぎると前立腺肥大、AGA(男性型脱毛症)のリスクが上昇するという、なかなか一筋縄ではいかないホルモン。
ちなみに性行為が前立腺肥大のリスクになったり、悪化させたりすることは証明されていないのでご安心ください。
こうしたリスク因子がある一方で、野菜や穀物、大豆などに多く含まれるイソフラボン、β-カロ テン、ビタミンC、ルテインなどは前立腺肥大を抑えるとも言われています。ノコギリヤシもいいという説がありますが、それについては有効であるという報告と、無効であるという報告が同じくらいあって、現段階では判定は保留されています。
ED治療薬としても使われる前立腺大の治療薬
では前立腺肥大があるかどうかは、どんな検査でチェックするのでしょうか。
前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAは前立腺肥大でも上昇します。前立腺がんだと上がり続け、前立腺肥大だと高止まりするイメージです。病状を知るには良い判断材料になりますが、たとえばAGA(男性型脱毛症)の治療中の場合などは、薬剤の影響で、PSAが本来よりも低く測定されてしまうことがあるので注意が必要です。
前立腺が肥大していないか、形がデコボコしておかしくないかを調べるには、超音波検査(エコー)が有用です。CT、MRIも有用ですが、エコーの方がより簡便で安価に施行できます。
エコーは膀胱に尿が貯留した状態で行った方が観察しやすいので、検査前にトイレに行かないようにしてください。
前立腺肥大の治療方法は、前立腺がんと同様、もしくはそれ以上に多岐にわたっています。
特に手術療法は何と15種類以上の選択肢があり、フローチャートのような形で最適解を示すのは、はなはだ困難です。前立腺がんの治療と同じように、「これがベスト!」という決め手に欠けることが、乱立を招いている可能性もあります。
原則的には個々のケースに合わせて治療法を選択すべきですが、実際には治療を行う医療施設がどの機器を使うのか、またどの治療法が得意なのかによって決まるでしょう。
前立腺肥大の治療薬がEDにも影響?
通常は、早期の前立腺肥大であれば薬物療法が選択されます。第一選択薬としてまず処方されることが多い「α1遮断薬」、効果が不十分な時に追加される「PDE5阻害薬」や「5α還元酵素阻害薬」、最近は処方頻度が減っていますが「抗アンドロゲン薬」などもあります。
この中で、PDE5阻害薬はもともとED(勃起障害)の治療薬として開発されたもの。前立腺肥大にも効果があることが分かったため、ほぼ同成分ながら別名で販売されています(PDE5阻害薬に付いては、次回に解説します)。
また、5α還元酵素阻害薬もなかなか興味深い薬です。
簡単に言うと、この薬はテストステロンの作用を抑える効果を持っています。テストステロンは前立腺肥大やAGA(男性型脱毛症)のリスクを上げると前述しましたが、この薬がそれを抑えることによって、前立腺肥大の治療だけでなく、発毛効果まで期待できるのです。実際に、こちらの薬も別名でAGA治療薬として販売されています。
ただし良いことばかりではなく、テストステロンを抑える反作用として、乳房が大きくなったり、乳首の腫れや痛みが出たりするケースが報告されています。
治療薬によっては射精障害も!?
現状ではEDやAGAの治療は保険適用外なので、「先生、前立腺肥大ってことにして保険で薬を出してくれませんか?」という人もまれにいますが、もちろんそんなことはできません。厚生労働省もそんな可能性は重々承知しており、これらの薬を保険適用で出す時には、本当に前立腺肥大かしっかりとした診断した根拠を提出することが求められます。
そして重要な注意点です。PDE5阻害薬を除いて、どの薬を選択した場合でも、多かれ少なかれ性機能に影響が出てきます。下の表を参照してください。
このうち「射精障害」というのは、精液が陰茎の外ではなく、膀胱の方に逆に出てしまうことです。健康上の影響はありませんが、気になる場合は薬を変更して対処します。
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