本連載が1冊の本になりました。日本人の死因で最も多い「がん」を避けるためにはどうすればいいのか、マンガで分かりやすく解説しています
前回(「ええ!データは正常でも糖尿病が進んでいる?」)、血糖値を上げる原因には次の2つがあると解説しました。
- インスリン分泌障害…インスリン自体が出ていない。
- インスリン抵抗性…インスリンの「効き」が悪い。インスリンは出ているけど、肝臓、筋肉、脂肪などが反応せず、ブドウ糖などを取り込んでくれない。
①であっても②であっても、インスリンを分泌する膵臓に負担をかけすぎないことが大切です。
膵臓の機能が落ちてインスリンの分泌量が減ってしまえば、糖尿病の発症に直結してしまうからです。ではどうやって膵臓を労わればいいのでしょうか。
まず、急性膵炎や慢性膵炎といった、膵臓の機能を極端に落とす可能性がある病気を避けることが重要です。両疾患とも、アルコールの過飲がリスクを上げることが分かっています(詳しくは「『適量のアルコールは認知症に良い』はウソ!」をご覧ください)。
そして慢性膵炎は、糖尿病だけではなく膵がんのリスクも上げるので、最大限の注意が必要です。
次に大事なことは、血糖値を乱高下させないことです。
膵臓が最も仕事をするのは「食直後」。理由はもちろん、そのタイミングで血糖値がピークになるからです。
食事による血糖値の上昇に呼応して、膵臓から速やかにインスリンが分泌され、30〜60分後に分泌量がピークとなり、血糖値を下げていきます。
この時、できる限り「急激に血糖値を上げない工夫」が必要になります。なぜかといえば、インスリンをドーンと分泌するよりも、ゆっくりと分泌した方が、膵臓の負担は軽減されるからです。これは、同じ距離ならダッシュするよりも、ゆっくり走った方がラクなのと同じです。
では、そのために一番シンプルな方法は何かというと、もちろん「ゆっくり食べる」ということです。
ある程度の時間をかけて、血糖値が急上昇しないように食べる。早食いは膵臓に負担をかけますし、ゆっくり食べる人の2倍も肥満が多いことも報告されています(1)(2)。肥満はインスリン抵抗性のもとなので、さらに膵臓に負担をかけてしまいます。
また、しっかり咀嚼することで食後血糖値の急激な上昇を抑えられる可能性が報告されています(3)。これは咀嚼そのものが大切なのか、咀嚼によってゆっくり食べることが大切なのか見極めが難しいですが、いずれにしてもプラスに作用するのはまず間違いないでしょう。
「早メシ早グ◯も芸のうち」なんて言いますが、少なくとも前者はまったくオススメできません。
結局、カロリー制限なのか糖質制限なのか?
「そうは言っても仕事が忙しくて昼食に時間は取れない」という人もいるかもしれません。
そういう人は、手軽につまめるものを片手に、会社で事務作業でもしながらゆっくり食べた方が、まだいいでしょう。
逆に、昼休みにある程度、時間の取れる人であれば、少し歩いて昼食を食べに行き、帰りは回り道して20分ぐらいかけて帰るのがいいでしょう。もちろん、上昇した血糖値を、エネルギーを消費することによって下げるためです。
また、野菜を炭水化物の前に食べるのがいいという報告もあります(4)。これは食物繊維が血糖値のコントロールに有効という事に加えて、順番を先にするだけで野菜の摂取量自体も増えるからです。
そして最後に、肝心かなめの「食事内容」はどうすればいいのでしょうか。
様々な食事法がありますが、ここでは最も議論の対象となりやすい「カロリー制限食」と「糖質制限食」を検討します。
カロリー制限食は、「全体のカロリーと脂質の摂取量を減らす」という方法で、糖質制限食は「炭水化物は減らすけどたんぱく質と脂質は制限しない」という方法です。
ここでもカギになるのは、インスリンの分泌の仕方です。つまり、
- インスリン分泌障害…インスリン自体が出ていないのか、
- インスリン抵抗性…肥満によってインスリンの「効き」が悪いのか、
という点です。
まず②の肥満によってインスリン抵抗性が上がってしまっているのであれば、肥満を解消することが一番大切です。そのためには「カロリー制限食」が最適でしょう。炭水化物と脂質の摂取量を減らして全体のカロリーを抑えます。ただし、たんぱく質はしっかりと取って、運動によって筋肉量を増やした方が、インスリンの効きは良くなります。
「糖質制限食」でもしっかりやれば肥満は解消されるでしょうが、肥満の人に「脂質は制限しなくてよい」とは言いがたいでしょう。
次に①のインスリン分泌障害がある場合です。太っていないのに血糖値が上がってくる人は、分泌障害がある可能性が非常に高く、日本人の糖尿病に多いと考えられています。
この場合、カロリー過多による肥満が原因ではないので、カロリー制限をする意味は全くありません。むしろ栄養状態が悪化する可能性すらあります。
炭水化物が血糖値にダイレクトに反映されることを考えれば、「糖質制限食」がベターでしょう。そして、こちらもたんぱく質はしっかり取る必要があります(ただしインスリン分泌障害の場合、治療が必要になるケースが多いので、食事法に拘泥しない方がいい)。
結局、本質的な違いは「脂質」の扱いくらい
いかがでしょうか。意外と単純な話なのです。
現実に原因が複数あるのに、一つの論理で対処し切ろうとするから、歪みと対立が生じるのです。原因に合わせて、個別の戦略を取ればいいだけなのです。
一方で、「カロリー制限食」と「糖質制限食」は本質的には脂質の取り扱いが違うぐらいで、日々の食生活の中では矛盾しない(もしくは峻別することができない)ケースも多々あります。機会を改めて再度解説いたします。
■参考文献
- Maruyama K, et al. The joint impact on being overweight of self reported behaviours of eating quickly and eating until full: cross sectional survey. BMJ. 2008 21;337:a2002.
- Ekuni D, et al. Effects of eating behaviors on being overweight in japanese university students: a cross-sectional survey at the Okayama University. Asia Pac J Public Health. 2013;25:326-34.
- 橋本 和佳他 咀嚼とインスリン分泌に関する研究 日本咀嚼学会雑誌 2004年 14 巻 1 号 23-28
- mai S et al. A simple meal plan of 'eating vegetables before carbohydrate' was more effective for achieving glycemic control than an exchange-based meal plan in Japanese patients with type 2 diabetes. Asia Pac J Clin Nutr. 2011;20:161-8.
『糖尿病診療ガイドライン2016』
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