恐ろしい糖尿病の「三大合併症」とは
さて、糖尿病になると動脈硬化を起こすということは、以前に解説しました。
血管には細いものから太いものまでありますが、糖尿病の場合、細い血管(細小血管)が詰まったときにダメージを受ける臓器と、太い血管(大血管)が詰まったときにダメージを受ける臓器を分けて考えます。
具体的には、以下のようなものです。
細小血管障害…網膜症(目)、腎症(腎臓)、神経障害(全身の神経)
大血管障害…狭心症・心筋梗塞(心臓)、脳卒中(脳)
ここで強調したいのは、いわゆる糖尿病の「3大合併症」と言われる細小血管障害についてです。
目の網膜や腎臓、神経を栄養する血管は非常に細いので障害を受けやすい。
その結果、網膜症は日本人の失明の原因の第2位ですし、腎症は透析になる原因の第1位になっています。
神経障害もあなどれません。全身の神経が侵される可能性があるので、非常に多彩な症状が出ますが、足のしびれ、感覚の低下、こむらがえりは頻度が高いです。
また時に起立性低血圧、消化器症状(下痢、便秘)、勃起障害(ED)なども起こります。
そして、神経障害が進行すると、痛みに対して鈍感になっていきます。その結果、糖尿病による狭心症を起こしても痛みを感じにくくなってしまい、知らない間にどんどん悪化してしまうという、合併症の合わせ技の様なことが起こりうるのです。
もちろん、できることならば、すべて避けたい事態です。
そのためのカギになるのは神経障害です。足のしびれは早い段階で起こることが多いので、糖尿病の早期発見につながることがあります。
「あれ?足がしびれるし、感覚がおかしいな」と思ったら、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
糖尿病を早めに見つけて、HbA1cが6.9%未満になるようにコントロールすることができれば、失明や透析のリスクをほぼ抑えられると報告されています(1)。
しかしその一方、血糖を急激に、もしくは過度に厳格にコントロールすると、低血糖や最小血管症の増悪、突然死などのリスクを上げるとも報告されています(2)。
結局、時には薬も必要になりますが、初期症状を見逃さずに早く見つけて、食事などの日々の生活習慣の中でマイルドにコントロールすることができれば、それが最高なのです。
では糖尿病のリスクを下げるためにはどんな食事の仕方が良いのでしょうか。
「カロリー制限すればいい」とか「糖質制限すればいい」といった2項対立ではありませんし、興味深い方法もいくつかあります。ここでもカギになるのはインスリンの動きです。次回、詳しく解説します。
- Ohkubo Y et al. Intensive insulin therapy prevents the progression of diabetic microvascular complications in Japanese patients with non-insulin-dependent diabetes mellitus: a randomized prospective 6-year study. Diabetes Res Clin Pract. 1995;28:103-17.
- Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes Study Group. Effects of intensive glucose lowering in type 2 diabetes. N Engl J Med. 2008;358:2545-59.
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