本連載が1冊の本になりました。日本人の死因で最も多い「がん」を避けるためにはどうすればいいのか、マンガで分かりやすく解説しています
前回のコラム「糖質ゼロで、人間は生きていけるのか」では、3大栄養素の大まかな代謝ルートについて解説しました。
糖質制限におけるケトン体の取り扱いについていくつかご質問があったので、こちらについては機会を改めてしっかりと解説いたします。
今回からは、「血糖値が上がる仕組み」の理解を通じて、どのような食事法が糖尿病のリスクを下げるのかをロジカルに考えていきます。
炭水化物は「ブドウ糖」に分解されて体内に吸収されます。
そしてエネルギーとして利用されたり、余った分は「グリコーゲン」や「中性脂肪」に変えられて、肝臓や筋肉、脂肪組織に貯蔵されたりします。
この一連の流れをコントロールするのが「インスリン」というホルモンです。
インスリンの役目は、ブドウ糖を適切な場所に分配する現場監督のようなものですが、その結果として最終的には血糖値が下がるので、インスリンは「血糖値を下げるホルモン」として有名です。
血糖値を上げるホルモンはいくつかありますが、下げるホルモンは、実はインスリン1種類しかありません。
「人類は歴史的に栄養を十分にとれない飢餓状態に長らくあったから、血糖値は複数のホルモンで上げやすくなっている一方、現代人のように栄養素で体内がパンパンになっていて、血糖値を下げることの方が重要という事態はほとんどなかったから1種類しかない」と、進化論の側面から説明されています。
その説明をさらに進めれば、糖尿病がこれだけ問題になっている時代が長く続くことによって、未来の人類は血糖値を下げるホルモンを複数持つことになっているかもしれません。
それはさておき、その糖尿病です。
糖尿病は、様々な理由でインスリンがうまく作用しなくなることによって血糖値が高くなってしまう病気です。
「平成28年 国民健康・栄養調査結果の概要」によれば、日本の成人のおよそ5人に1人は糖尿病か糖尿病予備軍と言われています。とにかく多い、ということです。
糖尿病の診断は、空腹時(10時間以上絶食)の血糖値や、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー:採血した日から約2か月さかのぼった期間の血糖値の平均を示す)などを測定して行います。
ちなみに健診で良い値を出そうと思って、1~2週間前からおもむろに生活習慣を正す人がいますが、HbA1cはもっと前のデータまで反映しているので、取りつくろうことはほとんどできません。
さて、糖尿病の診断基準は意外と複雑です。医療機関に任せておけばいいと思いますが、参考にしたい人もいるでしょうから一応載せておきます。
このチャートの中のOGTT2時間値というのは、10時間以上絶食してから75gのブドウ糖を飲み、その後2時間たってから測った血糖値のこと。空腹時血糖は正常でも食後血糖が高い人がいるので、そのチェックのための検査方法です。この点は食事法と密接に関連してくるので、改めて解説します。
本連載の著者が読者の質問に答えます!!
『日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』の著者、近藤慎太郎氏。10月は厚生労働省などが旗振り役となって「がん検診受診率50%達成に向けた集中キャンペーン月間」を実施しています。
そこで本連載でも、がん検診をめぐる読者の皆さんの質問に、近藤医師が直接回答する機会を設けます。「がん検診」をめぐる質問を、本記事のコメント欄より投稿してください。集まった質問に、近藤医師が本連載内で回答していきます。
恐ろしい糖尿病の「三大合併症」とは
さて、糖尿病になると動脈硬化を起こすということは、以前に解説しました。
血管には細いものから太いものまでありますが、糖尿病の場合、細い血管(細小血管)が詰まったときにダメージを受ける臓器と、太い血管(大血管)が詰まったときにダメージを受ける臓器を分けて考えます。
具体的には、以下のようなものです。
細小血管障害…網膜症(目)、腎症(腎臓)、神経障害(全身の神経)
大血管障害…狭心症・心筋梗塞(心臓)、脳卒中(脳)
ここで強調したいのは、いわゆる糖尿病の「3大合併症」と言われる細小血管障害についてです。
目の網膜や腎臓、神経を栄養する血管は非常に細いので障害を受けやすい。
その結果、網膜症は日本人の失明の原因の第2位ですし、腎症は透析になる原因の第1位になっています。
神経障害もあなどれません。全身の神経が侵される可能性があるので、非常に多彩な症状が出ますが、足のしびれ、感覚の低下、こむらがえりは頻度が高いです。
また時に起立性低血圧、消化器症状(下痢、便秘)、勃起障害(ED)なども起こります。
そして、神経障害が進行すると、痛みに対して鈍感になっていきます。その結果、糖尿病による狭心症を起こしても痛みを感じにくくなってしまい、知らない間にどんどん悪化してしまうという、合併症の合わせ技の様なことが起こりうるのです。
もちろん、できることならば、すべて避けたい事態です。
そのためのカギになるのは神経障害です。足のしびれは早い段階で起こることが多いので、糖尿病の早期発見につながることがあります。
「あれ?足がしびれるし、感覚がおかしいな」と思ったら、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
糖尿病を早めに見つけて、HbA1cが6.9%未満になるようにコントロールすることができれば、失明や透析のリスクをほぼ抑えられると報告されています(1)。
しかしその一方、血糖を急激に、もしくは過度に厳格にコントロールすると、低血糖や最小血管症の増悪、突然死などのリスクを上げるとも報告されています(2)。
結局、時には薬も必要になりますが、初期症状を見逃さずに早く見つけて、食事などの日々の生活習慣の中でマイルドにコントロールすることができれば、それが最高なのです。
では糖尿病のリスクを下げるためにはどんな食事の仕方が良いのでしょうか。
「カロリー制限すればいい」とか「糖質制限すればいい」といった2項対立ではありませんし、興味深い方法もいくつかあります。ここでもカギになるのはインスリンの動きです。次回、詳しく解説します。
■参考文献
- Ohkubo Y et al. Intensive insulin therapy prevents the progression of diabetic microvascular complications in Japanese patients with non-insulin-dependent diabetes mellitus: a randomized prospective 6-year study. Diabetes Res Clin Pract. 1995;28:103-17.
- Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes Study Group. Effects of intensive glucose lowering in type 2 diabetes. N Engl J Med. 2008;358:2545-59.
『糖尿病診療ガイドライン2016』
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