前回(「ピロリ菌の除菌で胃がんゼロには…ならない?」)は胃がんの原因として有名なピロリ菌について解説しました。
繰り返しますが、近年、胃がんによる死亡率は明らかに減っています。原因はピロリ菌の感染率が減っていること、胃がんの治療が進歩したことです。
もちろんいくら治療が進歩しても、胃がんで亡くなる人もたくさんいらっしゃいます。古くはアナウンサーの逸見政孝さんや、俳優の児玉清さんなどが有名でしょう。しかし、その一方で、元プロ野球選手の王貞治さんや、雨上がり決死隊の宮迫博之さん、俳優の市村正親さんなどは、手術が可能な状況で胃がんが発覚し、治療後も元気に活躍しています。
限局している早期の胃がんであれば、5年生存率は95.9%と非常に高いことが報告されています(地域がん登録によるがん生存率データより)。しかし進行するほど、生存率は段階的に下がっていってしまいます。
つまり、やはり早期の段階で見つけることが、その後を左右する重要なポイントなのだということです。では、胃がんを見つけるための検査には、どんな方法があるでしょうか?
バリウム検査より胃カメラを薦めるワケ
さて、胃カメラとバリウム検査です。両方とも一長一短があり、胃がん検診としてどちらが優れているか(つまり、どちらが早期の胃がんをより見つけるか)は一概には言えません。
ただし一つ、決定的に違うところがあります。それは胃カメラの場合、「食道も詳細に観察することができる」ということです。
「胃がんの話なのに食道?」と不思議に思うかもしれません。しかし実は、ここが一番大事なポイントになってくるのです。
というのも、食道は口と胃をつなぐ管状の臓器です。胃の手前にあるので、バリウム検査であっても胃カメラであっても、胃を観察する前には必ず食道を観察することになります。
しかしバリウム検査の場合、食道にバリウムがサーッと流れる数秒の間に、パシャパシャッと数枚レントゲンを撮る、というのが一般的です。これでは早期の食道がんを発見することはほとんど期待できません。
一方、胃カメラの場合は違います。
泡やカスがあれば洗い流せますし、送気したり脱気したりして食道を動かしながら、カメラが行きつ戻りつしてじっくりと食道や胃の状態を観察します。さらに特殊な光を当てて、がんを鮮明に浮かび上がらせることもできます。
その結果、早期の食道がんの85.0%が胃カメラで見つかっており、バリウム検査で見つかっているのは11.2%に過ぎません。それほどまでに大きな差があるのです。
食道がんが非常に珍しいがんであれば、胃カメラとバリウム検査の差は、そこまで重要視する必要はありません。しかし食道がんの罹患率は意外と高く、男性の場合、6番目に多いがんになっています。であれば、胃がん検診のついでに食道がん検診もできる胃カメラを選択した方が、当然、健康管理上のメリットは大きくなります。
実際に、消化器専門の医師で、自分の胃がん検診をバリウム検査で行っている医師はほとんどいないと思います。少なくとも私の周囲には一人もいません。
お酒を飲む人や喫煙者もバリウムより胃カメラを!
そのほかにも、バリウム検査のマイナス面は、いくつかあります。
まず、レントゲン撮影をするので医療被ばくがある、ということです。また検査の結果で病変が疑われる場合、後日改めて精密検査として胃カメラを受ける必要があります。つまり、二度手間になってしまうわけです。
「いつもバリウムで引っ掛かって、精密検査に回されてしまう」という人は、もう最初から胃カメラを選択した方がいいでしょう。
もちろん、バリウム検査が有用ではない、ということでは決してありません。ただし「アルコール過飲」や「タバコ」「逆流性食道炎」など、食道がんのリスク因子がある場合は、胃カメラを選択した方が安全です(逆流性食道炎については改めて解説します)。
では、胃カメラにはマイナス面がないのかと言うと、決してそんなことはありません。 例えば粘膜とカメラが擦れて出血することは時々あります。また極めてまれですが、食道などに穴を開けてしまうこと(穿孔)があります。
何より現実的に最大の問題になるのは、「検査が苦しい」ということでしょう。
皆さん、ノドの奥に指を入れればオエっとなると思います。これを嘔吐反射と言います。指の代わりに胃カメラを入れても、同様のことが起こります。これは人間には誰しも備わった体の機能なので、胃カメラを入れるとオエオエするという方がむしろ自然なことなのです。
とは言え、「だから耐えてください」というわけにもいきません。では、どうすれば胃カメラをラクに受けることができるのでしょうか。
次回は、胃カメラ経験者ならば、誰もが知りたいであろう、「胃カメラをラクに受けるコツ」を伝授いたします。
【参考文献】
Comprehensive Registry of Esophageal Cancer in Japan 1998-1999
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