本連載が1冊の本になりました。日本人の死因で最も多い「がん」を避けるためにはどうすればいいのか、マンガで分かりやすく解説しています
前回の「『健診は意味がない』のは果たして本当か」では、論文には疑問を感じる点が多々あると解説をしました。観察期間が極端に短い研究が複数混じっていますし、健診を受けないグループに割り振られた人が、何もしないで指示に従うとは考えにくいからです。
この論文から分かることは、「健診に意味があるかどうか」というエビデンスを確立するのはとても難しい、ということです。
こういった場合に「証明が難しい」=「意味がない」とひと足飛びに結論を下しがちなのですが、ここではもう少し粘り強く考えてみましょう。
エビデンスが確立しにくい場合、次に優先されるのは「論理」です。
つまり「原因」があって「結果」があるのであれば、「原因」を取り除くことによって「結果」が生じなくなるのは、少なくとも論理上からは当然のことです。
これは健診だけでなく、がん検診に効果があるかどうかという議論でも同じことが言えます。
より詳しく言うと、がん(原因)ができて大きくなり、ほかの臓器にも転移し、各臓器の正常な機能を低下させて死に至る(結果)のであれば、がんができないように予防するのが最善だし、不幸にしてできてしまった場合でも、その影響ができるだけ小さいうちに取り除くのが次善の策になります。
この点については私の最新刊『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』をご参照ください。
また、メタボに代表される生活習慣病(原因)によって動脈硬化(結果1)、さらには要介護状態(結果2)になるのであれば、やはり生活習慣病を抑え込むのが最善です。
原因があって結果が起こるという因果関係が明確なのであれば(そこは前提として最重要ですけれども)、原因が起きなければ結果は生じません。これを認めないというのであれば、ほとんどすべての自然科学は成立しません。この世界に飛行機は飛んでないでしょうし、スカイツリーも立っていないのです。
もちろんエビデンスがしっかりと出せればそれに越したことはありません。
しかし繰り返しになりますがエビデンスを出すのに向いていない事柄も世の中にはたくさんあるのです。
「エビデンス」を過信しすぎないこと
ここでは「エビデンス」よりも、雷を避雷針で誘導すればほかのところには落ちにくくなるという「理論」を優先しているのです。
つまりエビデンスがあれば無条件に信じていいわけではないし、エビデンスがないものは一切信じないというのも、やはり偏った考え方なのです。
端的に言うと、「エビデンス」とはデータをたくさん集めて、それらの平均値を出したもののこと。平均はあくまで平均にすぎません。もちろん、グループ全体にこういう傾向があるということは言えるので、全体の方向性を決めたり、政策的なことを考える上では必須のものですが、それぞれの個人に対して、100%適用できるものではありません。
特に健康問題のような「個人差」と「日々のバラツキ」が大きいものに関しては尚更です。
みなさんの周りには、「健診にはエビデンスがないから意味がないんだ」という人もいるでしょうし、「健診は一応受けているけど、生活習慣は改善できない」という人もいるでしょう。
そもそも健診には現状を評価するというフェーズと、問題があればそれを生活習慣なり薬なりで改善していくフェーズがあります。
問題が見つかっても改善することができなければ、健診を単に受けているだけになってしまいます。
そういう人が多ければ、平均的なデータ(エビデンス)は薄まって、全体としての結論は「健診には効果がない」という方向に振れていくでしょう。
しかし、それを鵜呑みにしなくてはいけない理由も実はありません。
この際、周りがどう考えているか、平均的なデータがどうかということは参考にとどめてよいのではないでしょうか。何よりも大切なのは、ほかならぬ皆さん自身がどう考えるか、ということです。
「生活習慣病→動脈硬化→脳卒中、認知症→要介護という流れがあって、大本の生活習慣病のチェックのために健診は必要だ」と理論的に思えば、やはり健診は受けた方がいいでしょう。
そして、健診を受けるだけではなく、健診の結果を踏まえた上で適切な食事や運動といった、良い生活習慣をいかにして日常生活に落とし込んでいけるかが重要です。
では、その適切な食事や運動と言うのはどういったものでしょうか? 次回から詳しく解説していきます。
(次回に続く)
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