物忘れが激しくて認知症だと思ったら、うつ病だったというケースも。
前回(「健康寿命が著しく損なわれる脳卒中、避けるには?」)、「要介護」状態になる原因には「脳卒中」と「認知症」があり、脳卒中の大きな原因は動脈硬化だと解説しました。
今回は要介護のもう一つの因子である、認知症について解説します。
認知症患者は2012年の時点で462万人おり、65歳以上における有病率は約15%と推定されています。おそらく、現在ではもっと増加していることでしょう。
認知症の定義は「通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断など多数の高次機能障害からなる症候群」です(国際疾病分類第10版より)。
そして、それらの認知機能の低下をベースにして、イライラして攻撃的になったり、逆に自発性や意欲が低下したりすることがあります。
定義はさておき、認知症のイメージは、皆さん大体つかんでいることと思います。
ここで注意したいのは、「慢性あるいは進行性の」という点です。認知症は原則的に後戻りしない病気で、回復するのは1%以下と報告されています。
認知症をきたす疾患は色々ありますが、ダントツで頻度が多いのが、アルツハイマー病(67.6%)で、その次が血管性認知症(19.5%)です。単純計算すると、この2つだけで9割弱になります(実際には合併するケースもあります)。
詳細については、また改めて解説します。
さて、認知症の初期症状はやはり物忘れです。何度も同じことを聞く、冷蔵庫に同じものが何個もある、料理の味付けがおかしい……。そんなことが続いて、家族などの一緒に住む人が気づくケースが多々あります。
日経ビジネスオンラインの連載「介護生活敗戦記」を1冊にまとめた『母さん、ごめん』でも、ノンフィクション作家の松浦晋也さんが、認知症のお母さまの介護記録を赤裸々につづっていました。衝撃的な内容だったので、記憶に残っている読者も多いのではないでしょうか。
ほかにも、認知症では仕事でミスが増える、物事を段取りよく進められない、よく知っているはずの場所で道に迷う、新しいことが覚えられない、過去のことが思い出せない……といった症状が初期によく見られます。
こう書くと、思い当たる節がある人もいると思います。
年配の人などは「もしかして自分も認知症なんじゃないか」と心配しているかもしれません。
物忘れが激しくなったのは何が原因なのか
人間は加齢とともに認知機能が衰えて当然なので、加齢に伴う物忘れと認知症は、通常は別のものとして考えます。
加齢に伴うものの場合、進行しないか、進行が見られても緩やかであること、病識が保たれる(「最近物忘れがひどい」と、自覚できる)こと、日常生活に支障をきたしにくいこと、などで鑑別されます。
そのほか、認知症だと思ったら、うつ病だったというケースも多くみられます。
時に非常に紛らわしいのですが、認知症だと認知機能の低下を軽くとらえがちで、うつ病だと重くとらえがち、という違いがあります。
また、うつ病であれば当然、抗うつ薬の内服で症状が改善しますが、認知症の場合は抗うつ薬で改善しないだけではなく、症状を悪化させることがあるので注意が必要です。
より詳しく言うと、フェノチアジン系抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬、三環系抗うつ薬は認知機能を低下させうると報告されています。
既に認知症の人がこれらの薬を飲めば悪影響しかないのは間違いありませんが、本来、認知症のリスクがない人がこれらの薬によって認知症になるのかどうかまでは、はっきりとしていません。
そもそも、これらの薬はいずれも精神・神経領域の薬なので、認知症の潜在的なリスクを持った人がこれらの薬を飲んでいたという、「逆相関」の可能性もあります。
世の中でまことしやかに言われている「睡眠薬で認知症のリスクが上がる」という説の出どころもこの辺りだと思いますが、よっぽど長期間に渡って大量に服用しない限り、通常は大きな問題にはならないと思います。少なくとも明らかなエビデンスはありません。
認知症については、有無を調べる簡易的なチェックシートがありますので、もし興味があれば、トライしてみてください。次のページで紹介しましょう。
果たして、それは認知症なのか?
認知症になると、徘徊(はいかい)したり、暴力的になったりするというイメージがありますが、活動性が落ちて大人しくなるだけというケースも、少なからずあります。
家族などの周囲の人に迷惑をかけてしまうのではないか、というのが認知症の怖さの一つだと思います。けれど「後者の場合は、介護負担が少なく、必ずしも認知症も悪いことばかりではないんだ」といった論調の記事をたまに見かけます。
それに対して、ことさらに異を唱えるつもりはありません。ただそれでも活動性が落ちることで、食事をとらなくなって低栄養になる、お風呂に入らなくなって不衛生になる、などの弊害はあり得ます。
やはり認知症は、自分の意思で、自分の人生をコントロールするというアイデンティティに関わる問題なので、避けられるものなら避けたいと思うのが普通でしょう。
では、そんな認知症を予防することは可能なのでしょうか。次回、詳しく解説します。
日経ビジネスオンラインでも好評を博したこの連載が、1冊の書籍になりました。
書名は『医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』。
あなたは次のような「がん検診」の新しい常識に正しく答えられますか?
- たった数年で前立腺がんの患者数が急増!?その背景にあった「〇〇〇検診」の影響
- 胃がん検診、バリウムと胃カメラなら胃カメラに軍配! 理由は「〇〇がん」も検査できるから
- 「大量に飲める人」と「弱いけれど少し飲める人」、肝臓がんのリスクが高いのはどっち?
- ピロリ菌に感染する人が減ったことで、逆に「〇〇がん」のリスクは高まっている!
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日本人に多い10のがんを取り上げて、正しいがん検診の受け方、使い方を紹介。同時に、最近取り沙汰されることの多い「PET検診」や、少量の血液や尿などからがんを見つけるとうたう「血液がん検診」など、「がん検診」をめぐる最新のテーマについても、マンガを用いながら、分かりやすく解説しています。
一冊読めば、あなたが「がん」や「がん検診」の怪しい情報に惑わされることは、もうありません。
【参考文献】
都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応 平成23年度~平成24年度総合研究報告書
Clarfield AM et al. The decreasing prevalence of reversible dementias: an updated meta-analysis. Arch Intern Med. 2003;163:2219-29
Zhong G et al. Association between Benzodiazepine Use and Dementia: A Meta-Analysis. PLoS One. 2015 May 27;10(5):e0127836.
『認知症疾患診療ガイドライン2017』
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