がん健診の運用ルールは100点ではない、けれど…

 結局、がんを早期に見つけるメリットと、境界病変を見つけるデメリットは、コインの表と裏の関係のように、切っても切れないものなのです。

 境界病変を見つけるのはもちろん悪いことでもないし、避けるべきことでもありません。境界病変を見つけたら、後は待機療法も視野に入れながら、それをどれだけ適切に扱うかという問題に収束します。

 ここで判断に迷ったり、問題が生じたりする可能性は確かにありますが、それはあくまで「運用」の問題。がん検診の早期発見・早期治療という「理念」に瑕疵があるわけではありません。境界病変の問題は、がん検診の存在意義を損なうわけではないのです。

 交通事故を起こす可能性があるからといって、自動車やバスをすべてなくした方がいいと考える人は少ないはずです。私たちが目指すべきことは、交通事故を起こさないようにルールを改善し続け、「適切に運用すること」なのです。

 がん検診も同じです。現行の運用ルールが100点でないことは間違いありません。それでも、課題を直視することを諦めず、100点を目指して改善し続けることが重要なのです。

 そのためには、知見を集積させて、「この病変は待機できる」「この病変は治療をした方がいい」という判断基準をより精密にしていくことが必要になります。

 実際、今までも医療はデータを集めることによって発展してきました。医療はあくまで経験則の積み重ねなのです。はるか昔から現在に至るまで、すべての患者さん、すべての医療者が、自覚の有無にかかわらず、否応なく知見を積んでは崩し、積んでは崩ししながら、少しずつ大きくしてきたピラミッドのようなものなのです。

 つまり、医療は人類の歩みと共に進歩してきました。テクノロジーや文化、芸術と同様に、せっかくであれば、医療の進歩も享受してほしいと思います。

 ただしテクノロジーや文化、芸術には好き嫌いがあります。また「ここまではいいけれど、ここから先はいらない」ということだってあるでしょう。これは医療も同様です。

 これまで本連載でも様々な情報を提示してきましたが、そのすべてを受け入れて実践しなくてはならないわけではありません。「自分の価値観で、ここまではできる」というところまででいいのです。