良性と悪性の境界線、見極めは非常に困難?

 境界病変、過剰診断についての理解を深めるために、がんの発生過程から見ていきましょう。

 一般的に、がんは複数の遺伝子異常が蓄積して発症すると考えられています。

 例えば大腸がんの場合、正常粘膜に「APC遺伝子」の変異が起こり、腺腫というポリープになります。そこに「KRAS遺伝子」の変異が重なって悪性度が高くなり、さらに「p53遺伝子」の変異が重なってがんになる、と考えられています。

 この場合、境界病変というならば、上から2段目と3段目の状態を指すことになります。

 大事なことは、境界病変は「がんとは全く無関係なシロモノ」というわけではなく、既に階段を何段か上った状態であり、さらに何かの拍子に遺伝子変異が追加されればがんになる、という「前がん病変」だということです。

 また病変が進展する過程はシームレスに繋がっています。ここまでが良性で、ここから先が悪性だという境界を厳密に規定することは、実は世界中の誰にもできません。たとえて言えば、虹のようなものです。大体7色と表現されますが、本来は無限のスペクトラムを持っています。

 であれば、境界病変を見つけることを「過剰診断」と呼ぶのは、少しミスリーディングではないでしょうか。境界病変は発がんのポテンシャルを持っているので、見つけることには一定のメリットがあるのです。

 全米規模の研究によれば、大腸ポリープをすべて切除することによって、大腸がんの患者数は76~90%も減少したと報告されています。日本でも、大腸ポリープを切除することにはコンセンサスが得られており、日常的に行われています。

 手遅れになる前に憂いを取り除いておこうと考えるのは、決して不自然でも道理に外れたことでもないのです。