日本のがん検診受診率はほかの国よりも低い?

 グラフを見ると、胃がん、肝臓がんの死亡率は激減しています。これはピロリ菌や肝炎ウイルスの駆除によって、発がん自体が減っている面が大きい。一方で、肺がんや大腸がんは徐々に減ってはいるものの、その勾配はかなり緩やかです。

 世の中でこれだけがん検診が広まっているのに、なぜでしょう。肺がんや大腸がんの検診には、意味がないのでしょうか。

 ここで、あえて「がん検診が広まっている」と書きましたが、実は日本のがん検診の受診率は海外と比べてかなり低いことが分かっています。

 OECD(経済協力開発機構)の報告によると、日本の乳がん検診受診率はデータのある36カ国中、下から6番目という状況です。

 そのほかのがんに関しても、受診率は似たり寄ったりです。加えて、受診率も低ければ、検診の結果で「さらなる精密検査が必要」となった場合の「精密検査受診率」も低いのです。
  例えば大腸がんだと、がん検診が便潜血検査、精密検査が主に大腸内視鏡検査という関係になりますが、平成27年度地域保健・健康増進事業報告によると、精密検査受診率は66.9%に留まっています。

 そもそもがん検診の受診率が低く、病気がある可能性が高いと判定されているのに、3分の1の人は精密検査も受けていない。これではがん検診で死亡率を減少させることもおぼつきません。

がん検診にも貧富の格差が

 ある程度の規模の企業で働いている人にはピンとこないかもしれませんが、小規模の会社や自営業の場合、がん検診への強制力が弱い、もしくは全くないので、「がん検診など受けていない」という人が実はたくさんいるのです。

 これは本人の意識の問題というよりも、忙しくて仕事が休めない、仕事を休めば手取りが減る、がん検診を受ける精神的・肉体的な余裕がないなど、「社会的な要因」が深く関与していると考えられます。

 その結果、今の日本では、どんな現象が起きているのでしょうか。

 検診を毎年受けている人は健康に対する意識が自然と高くなり、食事や運動も気をつけるので、どんどんと病気になりにくくなります。一方で、健診を受けられない人は、生活が乱れがちでストレスも強く、がんのリスクが高い状況に陥ってしまいます。

 その上、検診を受けていないので、がんができても早期で見つけることは非常に困難になる。救命できないケースも多くなり、全体の死亡率を押し上げることになっています。

 日本では社会的な貧富の差が広がっていると言われていますが、それと連動して、健康格差も広がりつつあります。両極が打ち消しあって、がんなどの死亡率減少効果を鈍化させているのでしょう。

 ちなみに、がん検診の否定論者の中には、「がん検診でがんが見つかる確率はとても低い」という主張があるのですが、それもこの健康格差の広がりで説明できます。

 がん検診でがんが見つかる確率が低いのは、健康な人ほどがん検診を定期的に受けていて、リスクの高い人たちほど受けていないからです。

 このように、がん検診には身も蓋もないパラドックスが存在しているのです。

 これはがん検診に意味がないという理論的な欠陥ではなく、運用上の問題です。

 健康格差をどうするかは、とりも直さず社会格差をどうするかということにつながります。そして、最もリスクの高い人たちに対して、がん検診のセーフティネットを張りきれていない点は、確かに現状のがん検診の重大な課題なのです。

 それは今後、何としても解決しなくてはいけないことだし、それが解決できた時、つまり最もリスクの高い人たちががん検診を定期的に受けるようになった時に初めて、がん検診の真の姿、真の有用性が明らかなになるでしょう。