「がん検診で寿命が延びる」の証明は確かに難しい

 以上から、「1、2、3が出ない」よりも「1が出ない」という、「小さな差」を証明する場合は、「数(この場合は振る回数)がたくさんいる」ということになります。

 「がん検診で寿命が延びる」ことを証明するのが難しいのはこのためです。

 つまり、あるがん検診で死亡数が5万人から4万人に減ったからといって、その結果、全体の死亡数が100万人から99万人に減ったこと(割合として小さな差)を統計的に証明しようと思ったら、膨大な数の被験者(サイコロにおける振る回数に相当)が必要になるのです。

 そもそもがん検診によって死亡率が下がったのに、全死亡数の減少が証明されるまで研究を続けること(つまり、がん検診を受けないグループに人を割り振り続けること)は、倫理的に許されません。

 医療の世界では、証明しようにも「現実的に無理」ということが結構あります。この場合もまさにそうです。しかし無理だからといって、「がん検診は寿命を延ばしていない」と結論を下すのは、論理に飛躍があるし、ミスリーディングでもあります。

 寿命を延ばす証明は難しいので、ここでは傍証を挙げておきます。

 胃がんの回でも解説しましたが、日本人のがんの死亡率は1985年に比べて約20%下がっています(もちろん、年ごとに比較可能なように、「年齢調整」を行った上で、です)。

 また、日本人の死因の1位はダントツでがんですが、それにもかかわらず、日本人の寿命も一貫して延び続けています。これは早期発見・早期治療を含めた日本のがん医療が、その方向性において結果を出し続けている証左だと、言えるでしょう。

【がん検診懐疑派の論拠2】「がんの死亡率が減っていない」

 「寿命を伸ばしていない」に関連する主張にはほかに「がんの死亡率が減っていない」というものもあります。

 これは、単なる誤りです。前述したように、がんの死亡率は現実に減っています。「減っていない」と主張する人は、年齢調整の必要があることを意図的に隠しているか、単に知らないだけでしょう。ただし、がんの死亡率は減っていますが、その減り方は、がんによってバラツキがあります。
  ここで部位別のがん死亡率の推移を見てみましょう。