本連載ではこれまで、肺がんや胃がん、前立腺がん、大腸がんなど、様々ながん検診について解説してきました。
がん検診の有用性は膨大なデータによって証明されています。しかしその一方で、解説を進めるにしたがって、様々な問題点も浮き彫りになってきました。
例えば前立腺がんを調べるPSA検診は、寿命に影響しないラテントがんを見つけている可能性があります。乳がん検診のマンモグラフィーは、高濃度乳腺に対して診断能力が落ちてしまいます。さらに結果の通知方法にも、再検討すべき点があると指摘しました。そのほかのがん検診についても、まだまだ色々な問題を抱えています。
それらの情報を受けて、「がん検診には意味がない」と主張する人たちも、世の中には存在します。そしてこうした主張を真に受ける人がたくさんいます。
本当にがん検診には意味がないのでしょうか。それとも、問題を歪曲して喧伝しているだけなのでしょうか。はたまた、真実はその中間にあるのでしょうか。
今回からの3回は、「がん検診には意味がない」と主張する人たちの論拠を紹介しながら、その妥当性を検討していきたいと思います。
さて、ではまずこれからスタートしましょう。
【がん検診懐疑派の論拠1】 「がん検診は、寿命を延ばしていない」
かなり大きな問いかけからスタートしたいと思います。
大前提として、がん検診は、検診をすることによって、そのがんの死亡率が減少することが「統計的に証明されている」から実施されています。それに対して懐疑派は、こう主張します。
「本当にそのがんでの死亡率が減少するのであれば、その結果、寿命が延びる(=脳卒中や心筋梗塞などすべての死因を合わせた死亡率も減少する)はずだ。しかし、それが証明された研究はない。つまり、がん検診は寿命を延ばしていないから意味がない」

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