膵嚢胞(すいのうほう)が見つかったら注意!

 糖尿病が膵がんのリスクを上げる一方で、その逆に膵がんが血糖値を上昇させることもあります。今まで問題なかったのに、新たに糖尿病になった場合や、コントロールできていた糖尿病が急に悪化した場合には、背後に膵がんが隠れている可能性があるのです。不自然な変化が膵がんの早期発見に繋がるケースもあるので、非常に重要なポイントです。

 繰り返しますが、膵がんにおいて、肥満や糖尿病、タバコ、アルコールはコントロールが可能なリスク因子です。さらに残念ながらコントロールはできませんが、実はもう一つ、あまり知られていないリスク因子があります。それが「膵嚢胞(すいのうほう)」です。

 みなさんの中には、今まで腹部エコーやCT検査を受けて、「肝臓や腎臓に嚢胞(のうほう)がある」と言われた人もいるはずです。嚢胞とは、中に液体が入った袋状の病変です(水風船のようなイメージです)。肝臓や腎臓の嚢胞はしょっちゅう見つかるもので、「問題にならない所見」の代表格。医療者も見つければ指摘しますが、基本的に放置で構わないと説明します。

 ただし、「膵臓の嚢胞」は、全く意味合いが違います。膵嚢胞と診断された人は、それがない人に比べて、約3倍も膵がんのリスクが高くなるのです。膵がんは嚢胞の部分にできることもあるし、全く別の場所にできることもある。それなのに、なぜリスクが高くなるのか、仕組みは解明されていませんが、これは統計的に判明していることです。

 この情報も、残念ながら医師の中でもあまり知られていません。肝臓や腎臓の嚢胞と同じ感覚で、「膵嚢胞がありますが問題ありません」と説明しているケースもありえます。もし膵嚢胞があると言われたら、消化器内科(できれば胆膵専門)を受診して、定期的なフォローを受けることをお勧めします。

がんで死ぬのは恐ろしいことなのか

 さて、ここまで厄介者の膵がんについて解説してきました。早期発見は難しいので、リスク因子を避けることが何よりも重要ですが、それで必ず予防できるとも限りません。膵がんは、確かに怖い病気です。

 けれど、ここで少し立ち止まって考えてみましょう。

 これまで、がんを早期発見・早期治療するための話をしてきましたが、そもそもがんで死ぬということは、そんなに許されないことなのでしょうか。

 身も蓋もない言い方をしてしまうと、人間はいつか必ず死にます。しかも、3人に1人ががんで死ぬ時代です。死因はがんに続いて、心疾患や肺炎、脳卒中などと続きますが、結局は何が原因で死ぬのかという違いに過ぎないとも言えます。

 もちろんこれは、個人の死生観によって異なるでしょうが、心筋梗塞や脳卒中によって、「死の恐怖を感じる時間もなくあっという間に死にたい」という人もいれば、「身の回りをきちんと整理し、家族にもお別れを言ってから死にたい」という人もいるはずです。

 そして後者を望む人にとっては、ある程度の時間的猶予のあるがんという病気は、最悪の選択肢ではないのかもしれません。加えて、がんの痛みや苦しさも、緩和ケアの発達した現代では、多くの部分をコントロールすることができるようになりました。

 「がんで死ぬのは意外と悪くない」。こう思っている医療者も、実は少なからずいるのです。

 もちろん当たり前のことですが、がんに限らず、治る病気は治した方がいい。治すタイミングを逃してしまった場合、やはり「やっぱりきちんと節制すればよかった…」「健診を受けておくべきだった…」「症状をほったらかしにしなければよかった…」といった、「○○しておけば」という後悔で、残りの人生が押しつぶされてしまうかもしれませんから。

 「治りにくい病気」が世の中にたくさんある中で、「治る病気」はきちんとケアして、「やるべきことはやっている」状態にすることが、精神衛生上とても大切になります。

 今回の膵がんは治りにくい病気の代表格ですが、それについても一次予防をきちんとし、時々はお腹のエコーを受けて、もし膵嚢胞があれば専門家に相談する。そこまですれば現状では十分合格です。後は自然の流れに身を任せるでも構わないと思います。

 膵がんは怖いというのは、ある意味事実ですが、その情報がひとり歩きしている印象もあります。ことさら膵がんだけに注目して恐れ続けるのも不合理でしょう。

 本来、「健康」とは人生を充実させるための手段であって、目的ではないはずです。どう頑張ったところで、人間にとって死は避けられない。健康維持のためになすべきことを淡々と実行すれば、後は毎日、できるだけ楽しく生きることが大切なのではないでしょうか。