人体には、実に様々な臓器がありますが、いずれも一般的に、皮膚や粘膜によって外界から遮断されて無菌状態が保たれています。もちろんいくつか例外はあって、鼻や耳、肺、尿道、膣などは、一部が外界とも接しています。ただしこれらの臓器も、あるところまで進むと、その先には行けなくなっています。基本的には「行き止まりがある」のです。
では外から入って奥へとずんずん進み、また外へ出るという臓器はないのかというと、1種類だけあります。それが、食道、胃、小腸、大腸などを含む「消化管」なのです。
消化管は食べたモノの消化と吸収、排泄に関わる一連の臓器の総称です。
それを踏まえたうえで、消化管の病気を見つけるにはどんな検査があるのか考えてみましょう。
食道、胃、十二指腸には胃カメラやバリウム検査、大腸には大腸カメラなどがあることは、今までに解説してきました。では6メートル以上ある小腸の病気は、どうやって見つければいいのでしょうか。
実は一般的に、小腸を検査することは、ほとんどありありません。
「胃や大腸の検査をしましょう」とはよく聞きますが、「小腸の検査をしましょう」と言われたことがある人は、かなり少ないはずです。これには2つ理由があります。
小腸のがんが少ないワケ
一つは、病気の頻度の問題です。小腸や大腸に炎症を起こす「クローン病」の患者は現在、国内に4万人以上います。これは完全に別格なのですが、それを除くと、がんも含めて小腸の病気は非常に少ない。
なぜ少ないのかははっきりしていませんが、小腸の上皮はターンオーバーがとても速いので、たとえがんなどの病気ができたとしても、進行する前に上皮ごとはがれ落ちてしまうから、と説明されています。
少なくとも小腸が検診の対象になることは今もないし、将来的にもまずないでしょう。
小腸を検査しないもう一つの理由は、単純に検査自体が難しいためです。
小腸は口からも肛門からも離れているので、一般的な内視鏡ではごく一部しか観察できません。全体を詳しく観察することは非常に困難で、得られる情報が極端に少ないため、小腸は長らく「暗黒大陸」などと呼ばれていたほどです。
そんな状況が、2000年に入り、「カプセル内視鏡」の登場によって劇的に変わりました。
カプセル内視鏡は長径が約3センチメートルの、文字通りカプセルのような形をした小さなカメラで、イスラエルの軍事技術者が、「消化管の中をミニチュアのミサイルが画像を送信しながら通過していく」と思いついて開発されました。なかなか興味深い開発経緯だと言えるでしょう。
レンズとLEDライトが付いており、口から飲んで消化管に入ったら、自動的に写真を撮り続け、最終的に肛門から排泄されます。
カプセル内視鏡から自動的に送信された画像データを体外のレコーダーに記録し、それを後に、ワークステーション上で解析するという仕組みになっています。
レコーダーさえ持ち歩いていれば、検査中に動いたり、一般的な日常生活を送ったりすることも可能です。カプセル自体は使い捨てで、原則的に回収する必要はありませんが、カプセルがちゃんと体外に排泄されたことの確認は必要です。
かつて「ミクロの決死圏」という映画がありました。重傷を負った患者の命を救うため、人間を細菌の大きさまで縮小して患者の体内に送り込み、内側から手術をする…という、なかなか大胆な設定の作品です。
また、皆さんご存知の「ドラえもん」でも、しずかちゃんが間違えて飲み込んでしまったお母さんのオパールを、ドラえもんとのび太がスモールライトで小さくなって探しに行く、という話がありました(「たとえ胃の中、水の中」)。
これまでもずっと、「こんなことができたらいいのに…」と空想されてきたことが、現代のテクノロジーを使って、半ば実現しつつあるのです。
大変画期的で魅力的な検査方法ですし、検査としてラクそうだというイメージもあるので、外来を受診する人の中には、「胃カメラの代わりに、カプセル内視鏡で何とかなりませんか」と問われるケースが時々あります。
胃も大腸もカプセル内視鏡で検査して!と思うけれど
ただ残念ながら、カプセル内視鏡はすべての消化管の検査に適しているわけではありません。小腸の観察のために発明されたものですから、小腸では抜群の実力を発揮します。
しかし一方で、食道や大腸の観察では一段劣り、さらに胃の観察には残念ながら全く向いていません。
なぜなら、カプセル内視鏡は消化管の蠕動運動によって運ばれる、いわば「大玉送り」のようなものです。これはあくまで蠕動任せで、カプセル内視鏡を見たい場所へ誘導することはできないのです。
胃のようなだだっ広い場所の場合、誘導ができなければ粘膜の大半が観察できないのです。
しかし人類のあくなき探究心は、実はそれをも克服しようと日夜努力を続けているのです。
【参考文献】
オリンパス社ホームページ
メドトロニック社ホームページ
Ota K, et al. What Kind of Capsule Endoscope Is Suitable for a Controllable Self-Propelling Capsule Endoscope? Experimental Study Using a Porcine Stomach Model for Clinical Application (with Videos). PLoS One. 2015;10:e0139878.
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