日本人のがんにおいて死亡数が最も多いのが肺がんで、3位が胃がんです。この2つのがんに関しては、既に解説いたしました。そして死亡数が2位のがんが、今回解説する大腸がんです。
2014年(平成26年)大腸がんの死亡数は、男女合わせて4万8485人と報告されていて、特に女性に限ると死亡数の1位になっています。さらに患者数は男女合計で1位と、日本人に最も多いがんになっています(がん情報サービスより)。
いつの間にか、大腸がんは日本人にとって「最も要注意のがん」になりました。
その割に、大腸がんはあまり注目されておらず、予防や検診の重要性が世の中に浸透していないと感じます。なぜなのでしょうか。
例えば肺がんや胃がんの場合、タバコやピロリ菌といった、はっきりとした原因があります。「禁煙やピロリ菌の除菌が大事です」といった分かりやすい説明が可能なのです。また乳がんの場合、若くして患う人も多いので、社会問題にもなります。タレントの北斗晶さんや小林麻央さんの闘病もさかんに報道されました。
では大腸がんはどうでしょう。
原因として「コレ!」という決定的なものがないので、何となく正体が分かりづらい。また大腸がんになった有名人としては、俳優の渡哲也さんや今井雅之さんがいますが、ニュースに接する機会はそんなに多くない印象ですね。どうも大腸がんは目立たない存在で、「意識に上りにくいがん」なのです。
また便やお尻の検査には羞恥心や心理的な抵抗を伴いますので、無意識のうちに避けたり、考えないようにしたりしているのかもしれません。
その結果、大腸がんは盲点になりやすくなっています。そしておそらく、それはとても危険なことなのです。
何と言っても、大腸がんは日本で患者数が最も多いのです。何のケアもせずに、ぼんやりしていると、気がつけばいつのまにか背後にいる、といった可能性が高いがんなのです。
ではそんな大腸がんのリスクを高める因子には、何があるのでしょうか。
国際がん研究機構IARCや国立がんセンターの発表によると、「アルコール」「タバコ」「肥満(BMIが25以上)」、などが挙げられています。
大腸がん、どうやって見つける?
では、どうやって大腸がんを、できることならポリープの段階で見つけることができるのか、という問題に集約されます。
現在の健康診断や人間ドックで、大腸がん検診としてまず行われるのは「便潜血検査」です。便の一部を容器に入れて提出し、便の中に血液が混じっていないかどうかを調べる検査です。
大腸がんやポリープなどの病変があれば、便が通過するときにすれて出血する可能性があります。それが起こっていないかをチェックするのが基本的な考え方です。
「検便」で小さなポリープを見つけるのは難しい
この検査のメリットは、とにかく簡単ということに尽きます。自然に出る便を提出するだけでいいのです。採血のように針を刺す痛みもありません。
簡単で、安価で、医療機関にとっても、マンパワーを必要としない。検診にはもってこいの検査方法です。
ただし、この検査では、大腸がんやポリープ自体ではなく、その結果起こるかもしれない出血の有無をチェックしているだけ。あくまで間接的な検査にすぎないので、診断能力は決して高いとは言えません。がんやポリープがあっても血が混じらないことはいくらでもあるし、何も病気がないのに便潜血陽性になることもありますから。
では、診断能力は実際にどのくらい精度が高いのでしょうか。
報告によってばらつきがありますが、大腸がんを1回の便潜血検査で指摘できる可能性は30~56%、2、3回繰り返してやっと84%と言われています。1回だと不十分なのは明らかなので、便潜血検査は通常2回。これは、病変があっても陰性になってしまうケースをできる限り減らすための工夫です。
当然、2回中1回でも陽性になれば「便潜血陽性」と診断され、精密検査が必要になります。
時々、「2回中1回は陰性になったのだから、もう1回やって確認したい」という人がいますが、実はそれにはあまり意味がありません。一度陽性が出たという事実は、その後、何回陰性になったとしても消えるわけではありませんから。
大腸がんのように出血しやすい大きな病変であっても、間違って陰性にならないように工夫が必要になってきます。
では、それよりも小さなポリープの場合はどうなのでしょうか。
ポリープを便潜血検査で指摘できる可能性は、11~18%と報告されています。極めて低い数字です。やらないより、やった方がいいのは間違いありません。ただし結果を絶対視して安心していると、足元をすくわれる可能性がでてきてしまいます。
ポリープを早期に発見するには、便潜血以外の検査を受ける必要があります。次回、さらに詳しく解説していきます。
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