ハイエクは中長期的な視点で考えている

金融緩和は経済厚生を高めることにつながらないと。

森田:金融緩和とケインズ型需要創造の政策は短期的には景気をよくするかもしれませんが、中長期的には貨幣価値の下落を通じて人々の購買力を落とし、経済厚生を悪化させる可能性があります。ケインズは短期、ハイエクは中長期的な視点に立っているとも言えるでしょう。

仮想通貨などの自由化がさらに必要だということですか。

森田:フィンテックがさらに進化していく今、これをさらに使えば人々は自らの購買力の安定化を図る選択肢を得ることになります。中央銀行の通貨発行を止める必要は全くありませんが、インフレ志向型の通貨は淘汰される可能性が出てきます。技術の進化はそこまできています。

ハイエクの思想とは

 自由主義経済の徹底した信奉者であるハイエクは、第2次世界大戦前、ソ連の影響で広がりつつあった社会主義と、アドルフ・ヒトラーのドイツに象徴される全体主義は共通性を持ち、それらを集産主義と呼んで徹底して批判した。

 ハイエクの主張するところはこういうものだ。個人主義、自由主義に基づく社会は、効率的な競争を最大限認めることで個人の努力を引き出す。経済的自由は、個人の選択の権利を保障する一方で、それに伴うリスクと責任が認識される。

 社会主義者は、生産手段の私的保有を否定し、中央の統制による計画経済を実施することで、社会資源配分をコントロールできるとする。その社会主義の下では、巨大企業が技術と効率生産を進歩させるのに伴って競争が消滅し、独占が深化し、計画経済が定着するといった形で経済が展開するという。

 だが、それらは政府の保護、誘導政策の結果であって、産業文明の進歩が経済プロセスの統制を必要とするわけではない。分業体制の中で個人の行動力を全体として調整する機能を持つのは、やはり市場競争の下での価格メカニズムしかない、と。

 今となっては当然のことのようだが、社会主義や全体主義が“躍進”し、広がりを見せていた時代には喝破というべきものだった。

 ハイエクは、市場は失敗するが、(集産主義的な)政府も失敗すると主張する。市場の失敗は不景気やインフレをもたらすが、あえて言えばその程度である。しかし、社会主義や全体主義が残す犠牲は遙かに大きい、と見る。それらは社会を特定の目的のために計画的に動かそうとする思想を根底に持つ。それは自由を奪い、悲惨な結果につながる。

 ハイエクはまた、ケインズも厳しく批判した。ケインズの議論には、ミクロの基礎がなく、経済の不確実性を政府が排除しようとする点でエリートによる工学的な解決を目指しているという。これに対してハイエクは、市場の自律分散システムによる秩序維持を重視した。

 ハイエクは、人々は不完全な情報しか持たないため、そうした個人の行動を調整する仕組みとして市場に目を向けたのである。
※この項は「ケインズとその時代を読む」(東京大学出版会)、「竹中平蔵のポリシー・スクール」(日本経済研究センター)などを参考にした。