吉川氏はCCTVの番組を配信することについて「情報源の1つとして知ることは大事」と話す
吉川氏はCCTVの番組を配信することについて「情報源の1つとして知ることは大事」と話す

 吉川氏はこう反論する。「情報源の1つとして知ることは大事。中国の軍事パレードの中継なんて誰もやらない。でもあれを見ると、いい意味で『こんな国と戦争したらえらいことになるな』と分かる。川上会長も『中国を知ることは良いことだ。一番近隣の大国を日本人が知らないのは、ある種の不手際』といつも言っていました」。

 その上で、「プロパガンダにならないようバランスをとっている」と主張する。1つが画面に流れるコメント機能。国内素材と同様、視聴者は批判的な意見でも自由にコメントを投稿できる。もう1つが、解説の独自番組。映画「靖国」の時も、李監督と反対派の熾烈なトーク番組をやった。南京事件関連の時も、専門家を呼び、「番組内では30万人の大虐殺があったとされているけれど、日本では真偽不明」と解説した。

 「中には『一党独裁はおかしい』とか話す出演者もいる。CCTV側にも、『討論会では何をしゃべってもいいということにしないと、今後、配信できなくなりますよ』と言っていて、それは許してもらっている。そうしないと、本当のプロパガンダになってしまうのでね」

 そう補足する吉川氏には、「中国を多面的に知ることが、相互理解の一助になれば」という思いもある。「ネット上では『中国と戦争しようぜ』と平気で言う人もいます。僕も川上会長もそれを非常に憂慮している。企業としてはコンテンツを見せることで、平和に導こうと」。

 CCTVも同じ思いだ。前出の高社長は「ニコ動を通じて中国のコンテンツを提供することで、隣国である両国の理解と信頼を深めることができればと考えている。来年、日中国交正常化45周年を迎えることもあり、今回の(チャンネル開設の)提携は意義がある」と話す。

次なるターゲットは「ロシア国営放送」

 そうした思いを「ネット民」も受け入れているようだ。各番組の視聴数は10万件ほどと、吉川氏いわく「想定よりも多く、大好評」。番組内に流れるコメントには「www」と笑いを示しておもしろがったり、「888」と拍手を表したりする文字もあり、批判的なコメントばかりが並んでいるわけではない。

 「CCTVは(中国最大のネット企業である)テンセントとかと比較しうる企業。視聴率2%だけで70分、2億円以上の番組を作れちゃうわけですよ。とにかくお金がある。うちとしては、長いことお付き合いしていこうかなと思っています」

 そう話す吉川氏は、CCTVとドワンゴによる独自番組の共同製作も視野に入れる。「例えば囲碁の世界チャンピオンは中国にいる。その人と日本の1位を対決させるとか、中国の囲碁コンピューター1位と日本の1位の対決とか。そういうところから交流をやっていけたらいいなと」。

 CCTVも前向きだ。8月末、CCTVを中心に、世界29カ国、41のメディアが参加する連合体「Belt and Road Media Community」が発足した。映像・番組制作から放送まであらゆるメディア活動を国際協力のもと行うという。ここにニコ動は日本から唯一参加した。前出の高社長は「共同製作に加えて、ニコ動のコンテンツをCCTVで放送することも前向きに考えている」とする。

CCTVを中心に、世界29カ国、41のメディアが参加して8月末に発足した「Belt and Road Media Community」の式典。ここにドワンゴは国内から唯一参加した
CCTVを中心に、世界29カ国、41のメディアが参加して8月末に発足した「Belt and Road Media Community」の式典。ここにドワンゴは国内から唯一参加した

 中国では、国民がフェイスブックやユーチューブといった海外のネットメディアを利用できないよう、規制をかけている。だが、ニコ動は「今年になってから、こっちが頼んだわけでもないのに不思議と中国でも見られるようになっている。異例なこと」(吉川氏)。

 国家と直結した中国最大の映像メディア企業と独自の「ウィンドウ」を持ったニコ動。次なるターゲットは「ロシア国営放送」という。ボーダレスなメディア連携は、政府間の交渉を飛び越えた新たな「うねり」を生んでいくのかもしれない。