吉川氏が目をつけた作品の1つが、日中合作による2007年製作のドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」。CCTVのディレクターだった李纓氏が日本に留学後、10年間にわたり靖国神社を取材したもので、当時、「反日映画」と糾弾され、上映自粛が相次ぐなど話題となった作品だ。

 李氏を訪ねた吉川氏の印象は、「この人ただ者じゃないな」。もともと吉川氏は日本テレビで「世界まる見え!テレビ特捜部」を手がけていた時、番組購入でCCTVとの関係はあった。尖閣諸島問題で日中関係が冷え込むと関係は途絶えてしまい、吉川氏いわく「日本テレビはCCTVから10年以上番組を買えていない」。しかし、李氏のCCTVの人脈は太く、共通の知人も多かったため、ふたたびルートが開いた。

 「尖閣問題が沈静化した雪解け状態の時に、すーっと入っていけた。ラッキーだった」と言って笑う吉川氏。李氏の作品のほか、国内では1日限りの上映会が行われた映画「南京!南京!」(2009年作品)、そして、CCTVが2014年夏に5夜連続で放映したテレビ作品「1937 南京記憶」などの配信権を得ることに成功、2015年夏にニコ動で“放映”した。

 吉川氏は、いずれも「日本人からすれば刺激的な『反日作品』と言えないこともないけれど、でも見たら意外と冷静に、感情的にならず描いているとも思った。作品としても若くて優秀な監督が手に塩をかけてしっかりと作りこんでいるなという印象」と話す。

 一度、門扉が開けば後は簡単だった。吉川氏が無謀とも思えるオファーをしても、CCTVはいとも簡単に「OK」の返事をよこした。

「プロパガンダ」にならないようバランスとる

昨年9月に配信した中国・人民解放軍の軍事パレード中継
昨年9月に配信した中国・人民解放軍の軍事パレード中継

 昨年9月の軍事パレードでは、約3時間にわたり、同時通訳付きで配信した。テレビ・動画メディアはロイター通信社の映像素材を利用することが多かったが、「ロイターはカメラが少ないし貧弱。対してCCTVの中継はカメラが120台。だったら頼んでみようよ、とお願いしたら、向こうが喜んでね。史上初のノーカット放送が実現しました」。

 今年2月には、中国のお正月「春節」の恒例行事、日本の紅白歌合戦にあたる「春節聯歓晩会」を約4時間にわたり、フリートークは同時通訳、歌唱中は字幕スーパー付きで配信した。中国では人口の過半数、約7億人が視聴するとされ、番組制作費も破格。吉川氏は「経費は約47億円と日本の紅白の5倍くらい。いかにすごい番組かを知っていたので、たまたま北京に行った時に国務院(内閣に相当)のメディア責任者に聞いてみたら、あっさりOKでした」と笑う。

今年2月には、中国版の紅白歌合戦「春節聯歓晩会」を約4時間にわたり同時配信した
今年2月には、中国版の紅白歌合戦「春節聯歓晩会」を約4時間にわたり同時配信した

 中国政府と直結しているCCTVがここまでニコ動に好意的な理由の1つは、「ノーカット配信」。国内ではNHKなどがニュース素材の相互提供でCCTVと提携関係にあるが、編集や独自解説など各メディアの手が加えられ、放送される。「テレビだと習近平主席の演説でさえ録画対応で30秒から長くて1分。僕らは生で全部。CCTV側はそのことを『本当にありがたい』と言っている」と吉川氏は話す。

 CCTVがネットメディアでの配信に積極的だったことも奏功した。ウェブサイト「CCTV.com」では毎日、3回以上はスマートフォンやパソコン向けに地上波の同時配信を行っている。先日のリオ五輪も多くを同時配信。100億件を超えるコメントが集まるなど大反響を呼んだ。CCTVニュースコンテンツの高社長は言う。

 「CCTVはテレビ放送だけではなく、ネットメディアでも国内外問わず、積極的に発信し、新たなビジネスモデルの構築を強化していきたいと考えている。その意味で、ニコ動は重要なパートナー」

 だが、ここで疑問が沸く。ニコ動は中国政府の「プロパガンダ(政治的な宣伝)」に利用されているだけではないのか、と。

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