浄化された「双方向」

NHKのアナウンサー時代にはツイッターの意見を取り入れる「Bizスポ」なども担当しました。物足りなさを感じていましたか。

:ツイッターの連動、市民参加型と言っても本体に切り込むような形になっていない。この意見は取り上げない方がいいという選別があるんですね。そうやって浄化されたものだけが双方向です、と言って流れる。これだと都合よく市民参加型の体裁を整えて、アイコン的に使っているに過ぎません。

 僕が今メーンキャスターを務めるTOKYO MXの番組「モーニングCROSS」では、尺(放送時間)を長めに取っています。SNSではこういう意見があるけど、まだはっきりとは分からないとか、こういう点について詳しい人がいたら教えてほしいとか、視聴者と本当の双方向性での打ち返しをするにはどうしても尺が必要になるからです。

受信料義務化は民度の表れ?

 街角インタビューでこちらが選別した賛成・反対の意見を流すことは、一見すると公平のように映りますが、全然違います。尺があれば、キャスターが自分の意見を表明し、全く異なる意見のゲストと議論することも可能です。右も左も含めてあらゆる議論がパッケージとして提示されるような状況を作り出すことが必要だと思います。

NHKを変えるには何が必要だと感じていますか。

:僕は視聴者がもっとNHKに対する関心を持つべきだと思っています。NHKがネットを活用した双方向の仕組みに消極的だからNHKへの関心が薄いというのはどちらかというと因果関係が逆のような気がしています。メディアは国民の鏡。大衆社会の底上げを図れないと、NHKの改革も進まない。メディアの価値が分かっていない視聴者が多すぎるのではないでしょうか。こんなことNHKにいた時には絶対に言えませんが(笑)。受信料を義務化しないと払わない国民の民度は知れていますよ。

 NHKはよく「皆様のNHK」という表現を使いますが、そうではありません。視聴者が「私たちのNHK」という意識を持つことが重要なのです。その意味では視聴者にNHK会長のリコール権を付与するのは有効かもしれない。今は国が決める経営委員たちが会長を決める形になっており、二重に濾過され、国民の意見が反映しづらくなっています。すごく遠いんですね。

米ネットフリックスに代表されるネット動画配信サービスの拡大で、公共放送と言うよりテレビそのものの位置づけが大きく変わってきています。

:この間、高市早苗総務相が電波を止める可能性があるという趣旨の発言をした際、ジャーナリストが一斉に反発しました。メディアが国にモノを申すというのは日本のテレビ局に欠けていた部分なので、歓迎すべき話ではあるのですが、僕はイマイチそれに乗れなかった。

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