質の高い番組を作るEテレ

NHKに限らず、公共放送の宿命として政権との距離をどう取るのかという問題があります。

 これは世界的な問題です。英BBCグローバル部門トップのジム・イーガン氏にインタビューした際、彼は公共放送と政治権力の関係は世界共通の課題だと指摘しました。その上で重要なのが、公共放送としてのスタンスを明確にすることだと。BBCはイラク戦争で米国に加担した反省からトップを公募で選ぶようになりました。

外からNHKを変えようと市民投稿型ニュースサイトを立ち上げた堀潤氏
外からNHKを変えようと市民投稿型ニュースサイトを立ち上げた堀潤氏

 韓国のKBSもセウォル号沈没事件が発生した時、大統領府から政権に批判的な報道をしないようお達しがあり、幹部が圧力に屈しました。でもそれで終わらず、公共放送は視聴者のための放送局だというスタンスを明示して、労働組合が大規模なストライキを起こしました。

 オーストラリアの公共放送でも政権からの圧力で製作費を削られ、記者らが反発する動きがありました。政治が揺らげば、混乱や不安のタネは大きくなる。そこで政権はメディアに対するコントロールを強めたいという欲求が高まりますよね。

現場に広がる萎縮感

政権との距離感は公共放送が内包する問題だとしても、海外の公共放送は圧力を突っぱねようという良心が働くケースが多いのですね。ドイツの公共放送ARDでも昨年末の移民暴動の際に同じような動きがありました。それがNHKでは見えない理由はどこにあるのでしょうか。

:中にいて感じたのは、やりたいことがやれなくなってしまうのではないかという萎縮感です。例えば教育テレビ(Eテレ)では、東日本大震災の直後に現地入りし、「放射能汚染地図」という良質なドキュメンタリー番組を作っています。彼らは「NHKは出世を諦めると、好きなことができる良い組織だぞ」と言いますが、大半の局員はヒエラルキーの中に組み込まれてしまいます。そこでは本当につまらない理由で沈黙してしまう。ここで1回突き返したら、将来もっと大きな圧力が来た時に打ち返せなくなるから我慢しようとか。

 待遇が恵まれているし、中にいれば楽なんですね。僕もNHKを辞めた直後は家も借りられない。友人の実家の屋根裏部屋が空いているからと、しばらくそこで暮らしていました。ベッドもないし洗濯機も置けない。コインランドリーに服を放り込んで、ラーメン屋で原稿を書きながら待つ生活でした。SNSを駆使して取材費用を得るという必死な暮らしで、NHK時代が恵まれていたことを改めて痛感しました(笑)。

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