「理想の通貨」の実現ですね。法定通貨とはどう違うのですか。

 一番の違いは、誰の信用にも依存していないということでしょう。法定通貨は国家の信用を背景に発行されており、国家は法定通貨の発行量をコントロールできます。一方で、ビットコインは、国家はもちろん、どんな組織や個人のコントロールも受けません。発行量や新規発行のペースについても最初から定められ、運用されています。

 モノとしての「形」がないことも大きなポイントです。貨幣のように製造費用や輸送費用がかかりませんし、管理にかかる手間やコストも大幅に削減できます。

「正体不明の人物」の提案がこれほど支持された理由

それにしても、いかに素晴らしい提案だったとはいえ、正体不明の人物が提唱したものが支持され、世界中で利用されるようになったことが信じられません。

 それだけ切実に求められていたということでしょう。ビットコインが最初に世界の注目を集めたきっかけは、2013年3月、地中海に浮かぶ島国、キプロスで起きた「キプロス危機」でした。金融危機に陥ったキプロスに対し、欧州連合(EU)は支援する引き換えに銀行預金への課税を要求した。それを機に、人々が預金を引き出し、ネットで手軽に購入できるビットコインに資産を緊急避難させる動きが活発化したのです。

その当時のキプロス国民にとっては、ビットコインが法定通貨よりも安心できる存在だったのですね。ただ、日本では、円をビットコインに替えてまで持つ必要性をあまり感じません。通貨としてのメリットはどこにあるのですか。

 確かに、日本人が日本で普通に生活をするうえではメリットを感じにくいかもしれません。しかし、グローバルな視点で見ると、様々な利点があります。

 一番大きいのは、海外に送金する際の手数料の安さでしょう。法定通貨を海外に送金しようとすると、既存の銀行間ネットワークを介さなくてはならず、日数もかかるし手数料も高い。例えば、外国で働く人が、自国に住む家族に数万円の仕送りをするのに、数千円もの手数料がかかったりします。しかし、ビットコインなら、手数料は数十~数百円で済みます。

 ネットなどで手軽に手に入れられる点も魅力の1つです。海外には銀行が近くになかったり、高い口座維持手数料がかかったりするために、銀行に口座を持てない人が少なくありません。そういう人は、ネットにつながっていても、ネット上での買い物ができない。しかし、ビットコインならネットなどで手に入れ、そのまま買い物にも使えます。

 利用者のメリットというよりは、社会のメリットと言えるかもしれませんが、実はドル紙幣などと比べると、違法売買やマネーロンダリングといった犯罪行為に利用しにくいという点も見逃せないポイントです。

 ビットコインの取引はすべて履歴が残ります。犯罪に使われるのを防ぐ仕組みの整備は、まだまだこれからですが、少なくとも、銀行から現金を引き出してしまえば足跡がたどれなくなる法定通貨よりは透明性が高いと言えるのではないでしょうか。

すべては9ページのペーパーから始まった―― サトシ・ナカモト論文とは?
すべては9ページのペーパーから始まった―― サトシ・ナカモト論文とは?
「ビットコイン:第三者を介さない個人間取引を実現する電子キャッシュシステム」というタイトルで9ページにわたり、ビットコインを実現するための仕組みの全体像がまとめられている。執筆者のサトシ・ナカモトは基本的なシステムを自分で作ってから、ペーパーで説明したと推測されている。

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