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マネックス証券での勤務経験は、今、どのような形で生かされていますか。

 配属先はCEO室だったのですが、やはり、松本さんから得た学びは大きかった。

 あれだけの能力を持つ人が、あんなに努力している。先ほど「起業はほとんどが失敗する」という話をしましたが、普通の人が普通にやったら、普通の結果しか出ないから成功は難しい。普通の人の何倍も考え、努力する人が、諦めずに最後までやり続け、初めて成功する。秋元康さんが「夢は手を伸ばした1ミリ先にある」と語ったそうですが、1ミリ伸ばすための不断の努力と、そのためのもうひと踏ん張りをできる人だけが果実を得られる。古い言葉ですが、「ローマは1日にして成らず」は真実なのだと、肌で感じました。

起業家にはパッションの塊のような方が多いですが、辻さんの場合、事業に対するパッションの源泉は何ですか。

 著名な起業家の方と会うと、そのパッションに圧倒されます。「自分はまだまだ足元にも及ばない」と感じて、ショックを受けることもしばしばですね。

 パッションの源泉って、自分でもうまく言語化できないんです。ただ、どこかに、今の日本の閉塞感に対する怒りみたいなものがあるのかもしれません。

 米国にMBA留学した時にも感じたのですが、日本って本当に素晴らしい国です。モノの品質は高いし、安全だし、便利だし。なのに、経済は停滞状態から脱せず、世界での存在感も薄れつつある。正しく評価されていない気がして、すごく悔しい。何かフェアじゃない。この状況をどうにかするために、微力ながらも、少しでも役に立ちたいという思いは強いですね。

人の頭の良さは変わらない 人を変えるのは「経験」

傍目からは、事業は非常に順調に見えますが、現時点での経営上の大きな課題を挙げるとしたら、何になるでしょうか。

 今、強く意識しているのは、新しい事業の立ち上げの必要性です。今年6月に、企業間の後払い決済サービスを提供する100%子会社「MF KESSAI」を設立しました。社長は30歳の若さ。当社の新卒採用第1期で、25歳の取締役もいます。

 新サービスを分社化した1つの理由は、組織としての活性化。権限を与えないと事業のスピード感が生まれないし、人も育たない。特に、起業家的な人間が。

 社長や経営幹部を経験しないと分からないことって多いんですよ。僕は、その人が持っている頭の良さってそれほど大きく変わるわけではなくて、変わるのは、経験によって幅や奥行きが広がる知識や判断力、スキルなどだと思っています。だから、早く経験させて、成長を促した方がいい。

 ベンチャー企業が、大企業では得にくい成長の場を提供できなくなったら危ない。活力を失ってしまう。だから、自分たちのような生まれて間もない企業でも、新規事業への取り組みが大切なんです。