毎晩、眠るのが怖い
「子会社が上場できるかどうか」は、その親会社に与える影響も大きいので、のしかかる責任は半端なものではない。クライアントに「新入社員だから“使えない”のか」と思われる事態だって、絶対に避けなければいけません。
「万が一、このIPOを失敗したら…」。当時の私は恐怖心から、文字通り、「ずっと」仕事をしていました。会社のパソコンに向かっていないと不安で、家に帰って眠るのが怖かった。毎晩1~2時間しか眠れず、「朝5時出社」が日課。今思えば、うつ病になりかけていたのだと思います。
とにかく死ぬ気で仕事をしたのですが、私は最後の最後で大チョンボを犯してしまいました。何と、最終過程で財務局に提出する「有価証券届出書」に、まさかのミスが発覚。しかも、締め切り当日に。ここで、それまでずっと張り詰めていた気持ちがプツッと切れた。
「あれほど準備したのに…」と自分で自分が情けなくなって、泣きながら六本木通りを走りました。…正直に言うと、車が激しく行き交う道路に飛び込もうと考えたんです。寸前で「死んでもどうにもならない」と何とか思い直せましたが。
気持ちを落ち着けて、真っ先にクライアントに謝罪です。言い訳をしないで「すみませんでした」と謝ったら、「大丈夫、大したことではないから」と逆に慰めていただけました。振り返れば、確かにそれほど大した失敗ではない。修正して提出を間に合わせることもできました。でも、当時の自分は社会人としての経験も判断力も足りなかったから、「世紀の大失敗」と受け止めたんですよね。
IPOを1人で任されて、失敗が怖いからがむしゃらに働きましたが、実際に失敗して本当の怖さを痛感しました。「こんな失敗は二度としたくない」。その思いが「仕事は常に全力で取り組む」という今の姿勢を根底で支えているし、「自分は気が緩んでいないか?」との戒めにもなっています。

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