大物女優に怒られた理由
「聞く耳を持たない超ワンマンからの大変身」ですね。
「そんなことも知らないんですか?」なんて言われたら、私はプライドが高い人間だから、内心はとても穏やかではない(笑)。でも必死だから、「人の話を聞く」習慣をひたすら続けました。
効果はテキメンです。周りが明らかに私に関心を寄せてくれるようになった。何かあるたびに、「吉田さん、どうしますか?」って。それで、当たり前のことに気づいたんです。相手も人間なのでエゴはある。だから私が真摯に耳を傾けると、相手は「自分を見てくれている、この人を信頼しよう」と思うんですよね。つまり「自分のエゴを捨てる」ことは「相手のエゴを満たす」ことにつながり、その結果として自分に見返りがある。
人の話を聞かないで自分の意見ばかり押しつけると、結局は損するということですね。
その真理は今なら分かりますが、「あまちゃん」の撮影中盤まで気づけなかったから、現場でのコミュニケーションはスムーズではありませんでした。例えば、ある大物女優さんに「もうちょっと“攻め”て演じてほしい」と要求したことがあります。すると「(相手役の)あの子が“攻めてこない”から、私が“攻められない”んでしょっ!」って怒鳴られたり(笑)。
もしも、「相手の話を聞くスタンス」でいたら…。「ちょっと“攻めきれていない”感じがするのですが、気になる点はありますか」と質問を投げれば、その女優さんはきっと「あの子が“攻めてこない”から、私も“攻めていけない”んだよね」と返してくれていたはず。「じゃあ、相手の俳優さんにつかみかかってもらいましょうか」「逆に、もっと距離を取って感情を爆発させてみます?」と建設的なやり取りになったはずです。
演出家は作品のためなら、厳しいダメ出しもいとわないイメージがあります。
作品の出来が最優先なのは当然ですが、仕事をしている相手はロボットではない。ましてや俳優は感情を操るプロ。「やれ」と言って感情が動くわけもなく、いい芝居にはなりません。演出家の仕事の本質は、「俳優やスタッフをその気にさせる」こと。相手の話を聞く姿勢は重要で、これはどんな仕事でも求められると思いますよ。
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