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 ビジネスシーンで周囲を動かしたり、巻き込んだりする時には「聞く力」が欠かせない。この力が持つすさまじいパワーを、「論」ではなく「証拠」でお見せしよう。

 格好の人物が、「あまちゃん」「サラリーマンNEO」などの人気番組の演出を担当したNHKエンタープライズの吉田照幸さんだ。かつて我が強くて人の話に聞く耳を持たなかったものの、仕事そのものはデキることから揶揄も込めて「エンペラー」と呼ばれた敏腕ディレクター。ところが、「あまちゃん」の担当になった際、過去の“威光”が通用せず、一転して周囲から見向きもされなくなったという。

 そんな窮地に陥った超ワンマンの吉田さんを救ったのが「聞く力」だ。

(聞き手:呉 承鎬)

正直に告白──「38歳まで、人の話を聞かなかった」

吉田さんはたくさんの人気番組の演出で知られていますが、一躍有名になったきっかけは企画も手がけたバラエティー番組「サラリーマンNEO」(レギュラー放送は2006~11年)ですね。

吉田 照幸(よしだ・てるゆき)さん
1993年にNHK入局、2013年9月からNHKエンタープライズ所属。主な担当番組は「サラリーマンNEO」「あまちゃん」「となりのシムラ」。今年3月に話題になった「弟の夫」(NHK BSプレミアム)も演出。「サラリーマンNEO劇場版(笑)」(ショウゲート配給)、「疾風ロンド」「探偵はBARにいる3」(いずれも東映配給)の映画監督も務めた。著書に『その雑談 カチンときます』(青春新書プレイブックス)、『「おもしろい人」の会話の公式』(SBクリエイティブ)、『折れる力』(SB新書)など。(写真:稲垣 純也)

 おかげさまで映画化するほどヒットしましたが、私はスタッフから「一緒に働きたくない」と思われていたはずです。スタッフの意向を一切聞くことなく、すべて自分で決めて自分でやる“オレがオレが人間”でしたから。結果を残していたので、人の話を聞かなくて済んだんです。学生時代から「サラリーマンNEO」が終わる38歳までそんな調子で、現場では「エンペラー」と呼ばれていたくらい。

見方によっては、「エネルギッシュな人」では?

 残念ながら、私に対する評価はポジティブなものではなかった。6年間も携わってきた「サラリーマンNEO」が終わった時のスタッフの様子は忘れられません。「やっと終わったよ。新しい担当番組が楽しみ!」という雰囲気が漂っていましたから。番組終了を寂しがっていたのは自分だけだと知って、さすがにショックで…。

「あまちゃん」の現場で思い知らされた「聞かないとヤバい」

吉田さんが次に担当したのが、13年にブームを呼んだ連続テレビ小説「あまちゃん」ですね。

NHK 連続テレビ小説 「あまちゃん」 DVD-BOX1(全4枚)
通販限定価格:1万800円(税込) 発行:NHKエンタープライズ

 私が変わるきっかけをくれた大事な番組です。バラエティー班からドラマ班に移り、自分が置かれた立場の違いを突きつけられて戸惑いました。ポジションはセカンドディレクターで、現場のトップではない。そもそもドラマ制作未経験の素人だから、誰も私にアイデアや意見を聞いてくれず、本当につらかった。そこからですよ、「どうすれば周りから関心を持ってもらえるか? 信頼されるか?」と考えるようになったのは。

答えは出たんですか。

 悩む自分を救ってくれたのが、「禅」の考えです。亡くなったスティーブ・ジョブズが関心を寄せていたこともあって、書店に禅の本がたくさん並んでいました。それで、「あまちゃん」を撮影する岩手県久慈市と東京の間の移動時間に読むようになりました。

 禅の本を読んで、「自分には『私を見てほしい』『デキる男と思われたい』という超主観的で自己中心的な考えがある。人に関心を持たれたり、信頼されたりするためにはそのエゴを捨てなければいけない」と気づきました。エゴを捨てれば相手への興味が湧くし、自分を作ろうとしなくなるだろうと。これまでの考えを180度転換し、「自分は何も知らない」ということを隠さず、相手が年下でも「ドラマの素人だから教えてください」と「聞く」ように努めました。