いつも「断られる人」は何がダメなのか?
頼み方に見る「快諾される人」との違い【大人の人間関係力】
自分が出したオファーは断られたのに、同僚のAさんが出したオファーには快諾…。日々の仕事には、こんな“不条理”が少なくない。この差はどこから生まれるのか。もちろん依頼内容にもよるが、同時に重要なのが「頼み方」だ。
(まとめ:島田 栄昭)
齊藤 孝(さいとう・たかし) 1960年静岡県生まれ。明治大学文学部教授。東京大学法学部卒業。東京大学大学院教育学研究科博士課程等を経て現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。累計部数1000万部を超える著書を送り出したベストセラー作家でもある。2018年2月に、ビジネスに役立つ実践的な“人づき合いのコツ”をわかりやすく解説した『
大人の人間関係力』を上梓。(写真:平野 敬久)
多くの仕事は、人に何かを依頼することから始まる。どれほど立派な企画も、協力者がいなければ実現は難しいだろう。だとすれば、重要なのは、いかに相手に「喜んで引き受けよう」と思ってもらえるかという「頼み方」だ。これは、仕事量が増えるばかりの社会人にとって必須のコミュニケーション能力だ。
大前提は、熱意や誠意といった「情」を見せること。自分はその仕事のためにどこまでエネルギーを注いできたか、なぜ人の力が必要なのかを文書や口頭で示す必要がある。
例えば、いきなり「この荷物を10m運んで」と頼んだとしたら、相手は「自分で運べばいいのに」と思うだけだろう。しかし、実は100mのうち90mまで自分で運んで力尽きたと説明し、「あと10mだけ運んでくれませんか?」と頼めば、相手も無下にはできないはずだ(嘘をついてはいけないが)。
単純に本人が楽または得をするための依頼なら、相手も自分本位で考える。しかし第三者のためだったり、努力している様子がうかがえたりすれば、多少無理をしてでも支援したくなる。それが世の常というものだ。人に何かを頼む際には、まずこの点を自問してみる必要があるだろう。
そのうえで、依頼に欠かせないポイントを3つ挙げてみよう。
依頼内容をイメージさせ、「当事者意識」を持たせる
第1は、「仕事の全体像を示す」ということだ。最終的に何が出来上がるのか、それが社会にどういう恩恵や影響をもたらすのか、あるいはその先にどういう展開を期待できるのか等々を伝えたうえで、「ついてはこの部分を」と依頼するわけだ。
そうすると、相手も役割をイメージしやすい。自分が1の貢献をすることによって最終的に10のものが出来上がるとすれば、やりがいも大きくなる。意気に感じて引き受けてくれるのではないだろうか。
言い換えるなら、発注者と受注者というビジネスライクな関係を、共同で1つのものを作り上げるパートナーの関係に昇華させようということでもある。いわゆる「当事者意識」がモチベーションを高めることはもはや常識だろう。
コミュニケーションが専門で、TVなどのメディアで活躍する明治大学教授の齋藤孝先生。“1000万部超え著者”でもある齊藤先生が、ビジネスに役立つ実践的な「人づき合いの技術」を1冊の本にまとめました。
コミュニケーションが少々苦手で、人間関係にストレスを感じ、仕事や生活が何だかうまくいかない――。『大人の人間関係力』は、そんな悩みを持つ人に向け、偉人たちの教えや自身の経験に基づく「人づき合いのコツ」をわかりやすく解説しています。
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“オンリー・ユー”演出が効く
第2は、「時間がない」という切迫感と、「あなたしかいない」という専門性に訴えること。特に忙しい人に依頼する場合、これらの要素が欠けていると、断られる理由になりやすい。
言うまでもなく、期限の提示は依頼の第一関門だ。気を使いすぎて「いつでもいい」などと言えば、永遠に後回しにされるだけ。「どうしてもこの日までに完成させたい」と明らかにして打診することで、相手も検討しやすくなる。時間的に不可能なら、「ではまた次の機会に」とすっきりあきらめもつくだろう。
それに切迫感をアピールすることで、相手によっては「そんなに困っているなら、何とか力になってあげよう」と、“仏心”を起こしてくれる可能性もある。日々の仕事が案外こういう「情」で成り立っていることは、誰もが体感しているはずだ。
同時に、「なぜあなたにお願いしたいのか」を説明することも不可欠。高い技術や知識をお借りしたいとか、実績や評判から判断したとか、「その人ならでは」を強調するのが礼儀だ。多少の誇張やお世辞を盛り込んだとしても、バチは当たらないだろう。こういう“オンリー・ユー”な演出が、相手をその気にさせるのだ。
「ちょっとでも」は相手の負担を軽減する言葉
そして第3は、「返事をイエスかノーかで迫らない」ということだ。たとえ10の仕事を受けてもらうことは難しくても、3や4なら可能かもしれない。その”落としどころ”を探るのが、むしろ依頼の本丸だ。コミュニケーション能力の真価が問われる場面とも言えるだろう。
こういう時、単純ながら役立つキーワードが2つある。「ちょっとでも」と「どちらかと言えば」だ。いずれも相手の警戒心や負担を軽減する言葉で、まず「ちょっとでもお願いできませんか」などと尋ねれば、相手も「ちょっとぐらいなら手伝おう」という気になるかもしれない。もちろん執拗に迫るのは厳禁。「ちょっとでも無理」と言われれば、即座に引き下がるしかない。
脈がありそうなら、「どちらかと言えば…」
多少なりとも脈がありそうなら、複数の依頼案を用意して「どちらかと言えばA案ですか、B案ですか」などと尋ねて依頼内容を固めていく。「中庸」を好む傾向のある日本人が相手なら、曖昧さを残した問いかけの方が答えやすいはずだ。
実はこのやり取りには、もう1つメリットがある。落としどころを探るうちに、お互いの考え方や熱量が伝わることだ。そうなれば、「情」も移りやすくなる。「この人の頼みなら一肌脱いでやろう」と思ってもらえたとしたら、それこそ最強の依頼術だろう。
相手をその気にさせる「頼み方」の3カ条
- 1. 仕事の全体像を提示しよう
「これだけやってくれればいい」としか言われないと、相手は不安&不審に思うもの。全体がどういうプロジェクトで、そのうちどの部分を担うのかを提示されれば、責任感もモチベーションも芽生えやすくなる。
- 2. 「時間がない」「あなたしかいない」を強調しよう
「いつでもいい」「誰でもいい」という頼み方では、「別に自分が引き受けなくてもいい」となる。誇張を含めてでも、切迫感とともに熱烈なラブコールを送るのがマナー。
- 3. 「ちょっとでも」「どちらかと言えば」で答えやすくしよう
「イエスかノーか」と返答を迫ると、相手は身構える。「ちょっとでも」「どちらかと言えば」と言いながら、引き受けてもらえそうな落としどころを探るといい。
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