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インターネットでもなかなか得られない世界の状況を指摘する橘氏。「欧米で起きている価値観の大きな変化は、いずれに日本にもやってくる」

 かといって年金制度には頼れません。現在の社会保障制度を、団塊世代が後期高齢者になる2025年以降も維持できると考える専門家はいない。65歳の支給開始年齢基準が大きく引き上げられるか、受給額がかなり減額されるか、あるいは「インフレ税」によって国の借金がチャラになるか。「何らかの調整はある」と覚悟しておくべきです。60歳の時点で手元にある金融資産は、「国家破産」による経済的混乱やケガ・病気など不測の事態に備えた“保険”と考えておくべきでしょう。

 貯金(金融資本)を保険と割り切るなら、肝心の老後資金は、働いてお金を稼ぐ力(人的資本)を60歳以降も労働市場に投資して獲得するしかありません。老後の暮らしを支える富の源泉を金融資本に頼るのではなく、「いかに長く働いて、老後を短くするか」という発想に切り替えるのです。

 当たり前の話ですが、生涯で得る収入は長く働くほど増え、同時に老後が短くなります。これで、「長すぎる老後」問題はシンプルかつ確実に解決します。

「稼げる自分になる」は難しいが、「長く働く」はできる

 世帯(家庭)の人的資本を最大化するには、配偶者にも働いてもらうのが最も経済合理的な選択肢です。配偶者が現在働いていない場合、年収100万円、200万円の家計所得増は容易に達成できます。大したことない金額だと思うかもしれませんが、10年間働けば1000万円、2000万円です。「生涯共働き」を超える最強の人生設計はありません。

 ところが、日本の会社では子供を育てながら働くのが難しいため、働く女性10人のうち5人は専業主婦になってせっかくの人的資本を放棄している。『専業主婦は2億円損をする』(マガジンハウス)を書いたのは、この状況があまりにももったいないと思ったからです。

 人的資本を最大化する戦略には、「長く働く」「世帯内の働き手を増やす」のほかに、「もっと稼げる自分になる」というアプローチもあります。これが自己啓発で、自分に投資して500万円、600万円レベルの年収が1000万円、2000万円になれば素晴らしい。その努力を否定しませんが、「頑張れば誰でも成功できる」わけではないのも確か。

 一方、「長く働く」と「世帯内の働き手を増やす」は、誰でもできて確実に収入を増やせる戦略です。余剰資金を年100万円でも株式などで積み立てれば複利で増えていくから、30年後、40年後にはさらに大きな違いが生じます。