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一生働かないと“差別”される

 世界が「生涯現役」に向かっていくのは、高齢化とは別の視点からも説明できます。欧米のリベラルな社会では、「人はそれぞれ自分だけの可能性を持って生まれてきた」という前提に立ち、「自分の可能性を100%生かして働ける社会が理想」と見なされるようになりました。ジェンダーギャップ(男女の社会的性差)が問題になるのも、「女性として生まれたことで自分の可能性をあきらめなくてはならないのは理不尽だ」と思うようになったからです。

 スウェーデンやデンマークはあらゆる指標で「世界で最も幸福な国」とされていますが、「社会に何らかの貢献をしている市民だけが社会から恩恵を受けられる」という発想が徹底された国でもあります。「社会への貢献」で最も分かりやすいのが「働いて税金を納めること」で、裏返せば「働かないと“差別”される社会」でもあります。80歳になって「さすがに現役を引退」となっても、「今後は福祉施設でボランティアしたい」と説明しないと皆が納得しない雰囲気ですから。

 「自由と自己責任」という北欧発の価値観は、近隣の欧州諸国や米国にじわじわと浸透しています。趣味嗜好や考え方が多様な「豊かな社会」では、これ以外に誰もが納得できる最大公約数的な社会通念はないからでしょう。日本は例によって世界のトレンドから半周以上遅れていますが、今後、欧米に倣う形で価値観が変化していくのは間違いありません。

国に「家1軒分」を納税する現実

 今後、「生涯現役」が当たり前の社会がやってくるのですが、その必然性をお金の面からも説明しておきます。「老後資金には最低でも3000万円必要。豊かな暮らしを望むなら5000万円、1億円が目標」と言われますが、普通の会社員が家を買い、子供を育てながら、60歳までにそんな金額を貯められるはずはありません。

 私もかつては会社勤めをしていて、その後、独立して個人事業主になって分かったことがあります。税負担を合法的に大きく軽減できる自営業者や中小企業のオーナー社長と違って、税と社会保障費を給与から天引きされる会社員が老後資金を効率的に貯めるのはものすごく難しい。大卒会社員の生涯収入は一般に3億円から4億円とされていますが、税・社会保障費の実質負担率は2割にも上り、国にトータルで6000万円から8000万円も納めているのですから。

 株式や不動産に投資して資金を増やす方法があるものの、こうした投資は「若いうちから長期でコツコツ増やしていく」のが鉄則。始める時期が遅くなるほど、元金を減らすリスクを取らざるを得なくなります。