「大人には理解できなくていい」

 日清のマーケティングに通底するのは、若者をターゲットにして「突っ込まれてなんぼ」という考え方だ。絶妙にボケて、ファンが突っ込みたくなる雰囲気を作る。

 ネット上で広がっているスラングのほか、人気の漫画やアニメなどもふんだんに利用しており、大人には理解しがたい表現も目に付く。しかし、「大人には理解できなくていい」(深澤取締役)という割り切りがある。

 そして、「狂っている」と思われるだけでは足りない。「狂っている」と言わせないといけない。そうしなければ、ツイッターなどで日清の話題が拡散しないからだ。

 2016年に展開した「OBAKA'S UNIVERSITY」のCMの1つのバージョンは、その象徴のようなマーケティングだった。

 

 このCMは、ビートたけしさん演じる学長のもと、歌手の小林幸子さん、「ムツゴロウさん」こと畑正憲さん、タレントの矢口真里さんらが登場する。このシリーズは当時、不倫騒動で話題となった矢口さんを「危機管理の権威 心理学部 矢口真理准教授」という設定で起用し、講義で「二兎を追うものは、一兎をも得ず」と学生に教えているシーンを盛り込むなどした内容が、不謹慎すぎると批判されて打ち切りとなった。だが、結果的に「狂っている」というブランドイメージを強烈に浸透させたという意味では、効果を発揮したと言えそうだ。

 もちろん、こうしたマーケティングに批判はつきものだ。ブランドイメージを棄損するリスクがあるにもかかわらず、日清はなぜ、そこまで攻めるのか。そこは日清の強烈な危機意識がある。

 同社には長寿ブランドが多い。46周年の「カップヌードル」だけではなく、「チキンラーメン」は来年60周年にもなる。今の若者にとっては生まれた頃から存在するブランドで、自分たちの商品という感覚が薄い。

 ブランドを長続きさせていくためには、若者に愛されなければならない。だからこそ、マーケティングでは従来のしがらみにとらわれず、大胆な手を打ち続ける。

 特に重要なのはスピード感だ。日清は消費者と対話しながら、次々と商品を発売するというマーケティングのサイクルを高速で回している。年間で発売するアイテム数は、約350アイテムにも上る。

 

 若者のトレンドは、はやり廃りが速い。流行をすぐに反映しなければ、あっという間に時代遅れになる。日清は安藤徳隆社長とマーケティング部門が1週間に1回の頻度で会議を開き、アイデアを集めてその場で意思決定を下している。

 40歳と若い社長が、現場の提案にブレーキをかけるどころか、さらにエッジを利かせてマーケティングに反映する。ネットならばアイデア提案から1週間で広告に反映できる体制だ。こうした組織体制と意思決定のスピードが、若者に刺さるマーケティングには不可欠だ。安藤社長の父である、創業家2代目の日清食品ホールディングスの安藤宏基社長・CEO(最高経営責任者=69歳)は、かつての日経ビジネスのインタビューで、「カップヌードルのCM、私は笑えない」と発言している。だからこそ、マーケティングについては日清の安藤社長に任せているという。(関連記事:「カップヌードルのCM、私は笑えない」~安藤宏基・日清食品HD社長が説く「破壊と創造」

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