自動運転の実用化が現実味を帯び、にわかに世界中から注目を集める企業がある。ドイツ・ベルリンに本社を置く地図サービス会社、ヒアだ。
現在、世界中で地図サービス事業を展開する会社は3社しかない。オランダのトムトムと米グーグル、そしてヒアだ。このうちヒアは、カーナビ搭載車の8割に地図を提供しているとされ、車載用地図では断トツの存在となっている。
ヒアに注目が集まっているのは、自動運転には高精度な地図が欠かせないからだ。クルマに設置されたセンサーだけでは、自動運転のメリットを最大限に生かせない。センサーと地図を組み合わせることで、高度な付加価値が生まれる。
例えば走行レーンの認識でも、地図が効果を発揮する。センサーで周囲の状況を把握するだけでは、4車線や5車線などの複雑な交差点では右折・左折する場合にどのレーンを走るのが最適なのか、完全に把握することは難しい。自動運転用の地図と連動することで、どのタイミングでどのレーンを走るのが効率的なのかを判断することができる。
ヒアの新しい顔となったのが、2016年3月に就任したエザード・オーバーベックCEO(最高経営責任者)だ。ネットワーク機器大手の米シスコシステムズから転身したオーバーベックCEOは、ヒアのビジネスをどう捉え、どのような戦略を進めようとしているのか。地図とデータをめぐる覇権争いについて、同社の欧州拠点であるオランダ・アイントホーフェンのオフィスで聞いた。
(聞き手は島津 翔)

1967年オランダ生まれ。独シーメンスなどを経て2000年に米シスコシステムズ入社。日本法人社長兼CEO、アジア・パシフィック・アンド・ジャパン・プレジデントなどを歴任し、2016年3月からヒアCEO
ヒアのこれまでのビジネスは、地図をカーナビ会社などに売り、ライセンス料を得るというモデルでした。それがこれからどう変わりますか。
エザード・オーバーベック氏(以下オーバーベック氏):まず初めに、将来を見据えた大きなビジョンをお話ししましょう。ヒアはこれまで、2次元のデジタル地図で世界的に著名な企業でした。おっしゃる通り、大きなビジネスはカーナビ事業でした。この事業も、カメラ技術によって、街の様子やあるエリアの様子を観察して地図に反映することで可能になったのです。
しかし、これから始まる変化はもっともっと大きく、美しいものです。これから15年間で、とてつもない変化が起こります。その一つが、建物の内部まで含めた情報化です。家の中もオフィスの中も全て地図化されます。そして建物の中の情報化は、外の情報化にも影響を与えるでしょう。非常にエキサイティングな変化です。
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