99.9999%の安全が市販のライン

ミュラー:システムが運転者を呼び戻せば、そこでオートパイロットは終わり、手動運転に切り替わります。レベル2の運転支援システムとの最大の違いは、システムがバックアップ機能を持たなければならない点です。

 センサーやブレーキのアクチュエーター、ステアリングなどクルマの操縦に関わる全てのハードウエアとソフトウエアにバックアップシステムが必要になります。99.9999%以上、安全と言えない限り、量産車には搭載できません。

試作車「ジャック」を試運転した感触では、車線変更やスピードの微調整など、人が不安に思わないような工夫やそれを裏付ける技術が搭載されていました。まだ安全と言い切れない部分はどこにありますか。

ミュラー:例えば、前方にナビゲ―ションなどで認識されていない渋滞が発生している場合です。前方部を認識するレーダーの検知能力は最大250mで、システムが認識してからでは、時速130kmからとんでもない緊急ブレーキをかけて停止することになります。そんなことがあれば、運転者は二度とシステムを信用しなくなります。

 また、ドイツでは車両間の相対速度差が大きいという問題もあります。時速130kmで走っているクルマもいれば、250kmで走っているクルマもいる。今の後方レーダーは120m程度先しか検知できないので、(後ろから時速250kmで走ってきたクルマを)認識して安全なレーンチェンジはできません。

 想定環境のうち80%は比較的容易にクリアできても、残りの20%が難しい。「ステップ・バイ・ステップ」で徐々に進んでいくしかありません。

ジャックで試験している「レベル3」の市販時期は。

ミュラー:2017年に発売する新型「A8」で、おそらく世界初となるレベル3の機能を搭載する予定です。これは時速60km以下の高速道路上の交通渋滞時に限定された機能です。A8には、レーダーやカメラなどに加えて、レーザースキャナー(LIDAR)を搭載し、システムの正確性を向上させます。

レベル4以上ではモビリティの概念が変わる

レベル3になると、オートパイロットの作動中はスマートフォンを操作したり本を読んだりしてもいいのでしょうか。

ミュラー:まず、(ドイツが加盟する)ウィーン条約には、時速10km以上ではハンドル操作を運転者が担わなければならないというルールがあります。ただし、米国と欧州では、レベル3以上のオートパイロットを可能にする方向(運転者が操作しなくてもよい方向)で合意しています。

 しかし、運転者の行動には制限があります。(車載ディスプレイで)映画を見たりeメールを確認したりするような、クルマに統合されている機能は利用できます。万が一、運転者がすぐにシステムに代わらなければならない状況では、それらを一瞬でシャットダウンさせることができるからです。

 一方で、スマートフォンや新聞などクルマに統合されていない機器などを利用することは許されないでしょう。米国は、運転中に手にモノを持つことさえ禁じています。ドイツでも、運転中にスマホを見たら100ユーロの罰金が課せられます。ハンドルに搭載されているエアバックと運転者の間にスマホなどのモノがあるのは危険だという安全面の問題もあります。

アウディにとって、自動運転技術は将来的に「クルマの価値」としてどの程度、重要でしょうか。

ミュラー:それは短中期と長期で異なります。渋滞時の走行は誰にとっても退屈です。A8に搭載する渋滞時の機能は、より安全に快適に、燃費良く走るというメリットがあります。自動駐車も、駐車のわずらわしさから運転者を解放してくれます。

 一方で、レベル4以上になれば、モビリティの概念そのものに関わってきます。朝、自宅から会社まで自動運転で行けるとしたら、クルマを日中、会社に置いておく必要もありません。自動で自宅に送り返すかもしれません。こういうことが実現できるなら、モビリティの定義そのものを再考しなければならないでしょう。