「人材のプール」までわずか150mの立地

 事務所の立地も経営に寄与する。ニューヘイブンオフィスから西へ1街画、150mほど歩くとイエール大学建築学部があるのだ。PCPAのスタッフはインターンシップの学生を含め、多くが同大学の出身者。共同創業者のクラーク氏も同大学で教職に就いており、優秀な学生に声を掛けてPCPAに誘う。

事務所からイエール大学建築学部までは150mほどしか離れていない。優秀な人材のプールが職場のすぐ近くにある(資料:日経アーキテクチュア)

 本拠地をここに置くのも、「人材のプール」とも言える学園都市だからこそだ。才能にあふれた若者が次々とPCPAの門をたたく大きな理由の1つは立地といえる。

 光井純&アソシエーツ建築設計事務代表とPCPAジャパン代表を兼務する建築家の光井純氏は、1980年代に同オフィスで勤務した経験がある。1970年代にペリ氏がデザインした駐日米国大使館を見て感動し、イエール大学で建築を学んだ。製図が得意だったことからペリ氏に目を掛けられ、「事務所でアルバイトをしないか」と誘われた。「1982年のことだった」と光井代表は回想する。

光井純&アソシエーツの光井純代表は1980年代にペリ氏の下で働き、「クライアントにもスタッフにもフェアである精神を学んだ」と話す(写真:Yasuo Nishizaki)

 光井代表は「PCPAで建築主にもスタッフにもフェアである精神を学んだ」と話す。一般的に建築学部の教授はインターンにお金を払わない。しかも、世界的に有名なペリ氏の仕事だ。建築家を志す学生ならタダでも飛びつく。光井代表も同じ気持ちだった。しかし、ペリ氏はその態度を叱ったという。

 ペリ氏は学生だった光井代表に対して「無料で仕事をしたら、建築家としての職業意識が損なわれる。たとえ学生でもプロ意識を持て」と諭した。

 後にPCPAで働いた光井代表は、このプロ意識を改めて教えられた。例えば、飛行機でクライアントのところに出向く際、先方がエコノミー席の料金しか支払わないなら、PCPAが差額を払ってビジネス席に格上げするという。「建築家としてのプロ意識と責任感を持たせるには、事務所で働くスタッフの待遇から良くするという哲学の表れだった」と光井代表は振り返る。

 PCPAには勤続年数の長いスタッフが多い。光井氏は「給料や待遇が良いので辞めるスタッフが少ない」と話す。サポート体制も充実している。スタッフが設計に必要な技術を取得する場合には、事務所がその費用を負担する。社内でトレーニングを積む仕組みもある。日本の職場でもみられる職場内訓練(OJT)が基本だ。4年前からPCPAで働く米山薫里氏も「何度も周囲の仲間に助けられた」と話す。日本の先輩・後輩に似た人間関係が出来上がっているという。

オフィス2階には本格的なキッチンがあり、お抱えシェフが調理したランチが食べられる
ランチは無料。昼休みにはオフィスの至る所で食事を囲んだ輪ができる

 オフィスを取材した時刻は、ちょうどランチタイムだった。2階廊下の長机にはサラダやベーグル、パスタなどの大皿が並べられていた。本格的なキッチンが備えられ、お抱えのシェフが昼食を調理してくれる。食事代は無料。スタッフは思い思いの場所に集まって、くつろぎながら食事を取っていた。

 毎月第一金曜日は「ピザの日」となる。17時を過ぎるとオフィスにピザが届けられ、皆で食事をしながら誕生月のスタッフを祝ったり、新たな社員を紹介したりする。夕方にはオフィスに子どもの声が響く。送り迎えの時間に合わせて柔軟に勤務時間を設定できるので、スタッフが子どもをオフィスに連れてくるのだ。