「反論」から議論を発展させる文化

100以上のデザイン原案を考えたカナダのケベック美術館
100以上のデザイン原案を考えたカナダのケベック美術館

 クライアントとの協議で使う南東側の部屋には、カナダのケベック美術館増築コンペで勝った模型が展示してある。若手を中心に練ったデザイン原案は100を超え、様々な模型を製作した(上の写真の手前側に見える小さな模型たちだ)。このコンペでは締め切りの1カ月前に突然、レム・コールハース氏がデザインの方向転換を指示したという。

 ケベック美術館増築コンペを担当した近藤洋介氏は「常に重圧を感じていた」と話す。当時は経済危機の直後でNYオフィスのスタッフが激減。「このコンペに勝たなければ大変なことになる…」という状況だったためだ。コールハース氏の鶴の一声で苦心したデザインが変更になったときは「心が折れかけた」という。

 「OMAでは最後まで自己批判の精神を持って切り捨てる覚悟が求められます」と近藤氏は語る。「より面白いものをつくりたいと願うなら、満足しては負けだと思う」。

近藤洋介氏(左)とアリサ・ムラサキ・サルツゲイバー氏(右)2人とも日本の設計事務所で勤務した経験を持つ。創業者とでも議論できる企業文化が「上下関係を重んじる日本とは違う」と語る
近藤洋介氏(左)とアリサ・ムラサキ・サルツゲイバー氏(右)2人とも日本の設計事務所で勤務した経験を持つ。創業者とでも議論できる企業文化が「上下関係を重んじる日本とは違う」と語る

 2014年に入所したアリサ・ムラサキ・サルツゲイバー氏は、日本の設計事務所で2年ほど働いた経験がある。その経験と比較して驚いたのは「反論」する文化だ。

 「自分は良いデザインをしているんだ」という精神性があるため、他のスタッフから「ダメ」と言われて引っ込んではいけない。サルツゲイバー氏は「反論から発展した議論から方向性をつかんで、新しいアイデアに結び付けなければなりません」と話す。

 デザインやリサーチなどそれぞれに得意分野を持って事務所を経営するパートナーは、3カ月に1度は顔を合わせて会議を開き、OMAのプロジェクトの方向性について話し合う。重松氏など百戦錬磨のパートナーの指示は重要だが、若手スタッフも重松氏やコールハース氏と臆せず議論できる環境がある。誰と闘ってでも「革新」に迫れ、という教育が、OMAスタッフには施されている。その姿は、やはりOMAの建築と重なってくる。

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