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国民にウソをつくことになる

いずも型護衛艦の空母化に問題はないのでしょうか。

道下:まず、空母化された「いずも」を空母と呼ばないことにしたのは文民統制(シビリアン・コントロール)上、重大な問題です。「国民に正しく事実を伝え、文民統制を機能させる」という原則に逆行する動きです。空母の能力をもたせるのだから「空母」と呼ぶべきです。それを、自公の与党は「多用途運用護衛艦」 と呼ぶことにしました。自民党は「防御型空母」「多用途運用母艦」という呼称を提案していましたが、いずれも公明党が拒否しました 。

 実態と異なる名称を付けるのは、国民にウソをつくことになるし、文民統制が利きづらくなります。民主主義と政治の透明性を重視する公明党がこれに逆行し、“知らしむべからず”を助長する動きを取ったのは皮肉な事態です。

 加えて、海上自衛隊による空母の運用は、航空自衛隊の組織を不安定化させる懸念があります。いずも型護衛艦に搭載するF-35Bは航空自衛隊が運用することになりますが、これが、空自幹部のキャリアパスを変化させる可能性があります。いずも型護衛艦から離着陸するF-35Bを操縦するには高い技能が必要ですし、長期にわたる海上勤務は空自の隊員には未体験の世界で、家族にも負担になります。したがって、空自のパイロットのなかでも能力が高く、熱意のある人々がむしろ海自艦艇で勤務することになるかもしれないのです。

 これまで、空自では優秀なパイロットが高級幹部になってきました。しかし、長期間、海自艦艇で勤務した幹部が組織のトップに君臨することを空自の隊員達はどう感じるでしょうか。また、空自と海自が人材の取り合いでもめることは想像に難くありません。

 ただし、組織のアイデンティティを脅かされた空自が奮起する機会になる可能性はあると思います。

日本の防衛力の全体像を初めて描いた

いずも型護衛艦にF-35Bを搭載すること以外に、道下さんが最も注目したのはどんな点ですか。

道下:日本の防衛力の全体像、より具体的には中国に対する防衛戦略の青写真をついに描きだしたことだと思います。「すごい」と思いました。言いかえると、今回の防衛大綱は、インド太平洋地域における軍事的なバランス・オブ・パワーを維持するために、日本が何をするのかを示すものになっています。

 これまでは「戦車」や「護衛艦」「戦闘機」など映画に出てくるような“派手な正面装備”に目が行きがちでした。これらの装備の数や部隊の数をまとめた「別表」はその象徴です。従来は、ここに記載される数が減らされないよう、陸・海・空自衛隊が競い合う傾向がみられました。

 それが今回、大きく変わりました。別表に「サイバー防衛部隊」や「海上輸送部隊」を載せたことが、この変化を表しています。また本文に、宇宙や電磁波の領域における能力の獲得・強化も盛り込みました。これらがきちんとしていなければ、戦車や護衛艦を生かすことはできません。サイバー防衛などはこれまで先進国の水準から大きく立ちおくれていましたから。

 調達面で「割り切り」を見せた点も評価しています。安倍政権は防衛大綱を決定した閣議で、F-35の取得数の変更を了承し、同機の取得数を増やすとともに「完成機を輸入する」としました。

 F-35の国内組み立てを断念し、代わりにより多くの機数を確保することにしたのです。つまり、厳しい財政状況のなかで、国内の防衛産業の維持・育成を多少犠牲にし、実際の防衛能力の強化を重視したということです。