玉井教授によると、非公開特許制度は米国では次のように運用されている。まず、特許商標庁が受け付けた特許出願すべてをチェックし、国の安全保障を維持する観点から公開が不適切と思われる案件があれば、国防総省やエネルギー省などの担当省庁に回す。担当省庁が「公開不適切」と判断すると、特許商標庁はこれを非公開とする。出願者はこの技術を発表することも許されない。

 一方、特許商標庁はこの出願の審査を進める。特許に値すると認めた場合は、出願者に通知し、補償金を支払う。特許になっていれば得られたであろうライセンス料収入を補填する意味合いがある。発明者に与えられる名誉は補償されない。ただし、担当省庁が非公開の指定を解除すれば、通常の特許と同様の扱いになる。

 現代の技術は、軍用と民生用の区別がつかない。「地震の研究は日本では純粋な平和目的で行われているが、米国では、自然現象の地震と地下核実験による振動を見分けるための検証が主な目的だ。介護用のパワーアシストスーツは民生だろうか。米国では、“ガンダム”を作るために、同様の技術を研究している」(玉井教授)。防衛産業が出願する特許だけを非公開の対象にしていては、重要技術が網の目から漏れる可能性が高い。

 同教授によると、非公開特許制度はほとんどの国が導入している。米国、韓国、中国、ロシア――。「ドイツは特許法で、国家秘密は非公開とすると定めている」

 クリアランス制度は「政府が技術者の適格性を保証する仕組み。対象は主として個人。資格を持たない者が安全保障上核心的な技術を扱うのを許さない」(同)。守るべき技術のそれぞれに対して、アクセス権を数段階で定め、それぞれについてアクセスできる情報の範囲とアクセスできる人の要件を定める。

 このクリアランス制度は非公開特許制度を支える基盤ともなる。さらに「この仕組みを整えないと、米国企業との共同開発ができなくなったり、技術供与を得られなくなったりする恐れがある」(同)

 玉井教授の提案は、日本の技術安全保障を考えるうえで貴重だ。ただし、課題もある。最も大きいのは、公開を認められなかった技術者から強い反発が予想されること。技術は公開し共有することで進歩してきた。公開は、技術者たちの大きなインセンティブとなっている。玉井教授も「このような制度を導入しないで済むなら、それに越したことはないと思う。しかし、それを許さない状況になることも覚悟しなければならない」という。

 技術の進歩や技術者のインセンティブと、技術安全保障の間でいかにバランスを取るのか。この難題を議論し、国民に選択肢を示し、その理解を得なければならない。

 来年には参院選と統一地方選挙が控える。これを恐れ、付け焼き刃の議論にとどまるならば、大綱・中期防をいま改訂する意味はない。日米同盟の再評価、ヒト、カネ、技術という幹の部分をしっかり見据え、国民の議論を促す大綱・中期防とすることが期待される。

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