一方、香田洋二・元自衛艦隊司令官は、日本を直截的に防衛するのと同時に、空母を中心とする米海軍部隊の来援を支援する体制を充実させる必要があると指摘する。「脅威となるのは中国の潜水艦、爆撃機の『H-6K』、対艦弾道ミサイル。これらに対して、少なくともハワイから西については日本が確実に対処できるようにすべき」「もし、虎の子の空母に被害が出るようなことがあれば、米国民の参戦意欲は崩れ、日米同盟そのものが危機に陥る」

<span class="fontBold">香田洋二(こうだ・ようじ)</span><br> 海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた。1949年生まれ。72年に防衛大学校を卒業し、海自に入隊。92年に米海軍大学指揮課程を修了。統合幕僚会議事務局長や佐世保地方総監などを歴任。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など(写真:大槻純一)
香田洋二(こうだ・ようじ)
海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた。1949年生まれ。72年に防衛大学校を卒業し、海自に入隊。92年に米海軍大学指揮課程を修了。統合幕僚会議事務局長や佐世保地方総監などを歴任。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など(写真:大槻純一)

米軍よりも外交力に頼る

 一方、前出の柳澤氏が考える対処法はこれまでの二人と異なる。「日本は自らの政治力で戦争を回避することを考えるべき」との考えに立つ。「米国とともに力で抑止する方針は、日本が米国の戦争に巻き込まれるリスクを高める」からだ。

 北朝鮮に対しては「武力で脅すよりも、その意思を変える道を考えるべき。北朝鮮が喜んで核を放棄する理由を与える、つまり利益誘導する」

 また中国脅威論には2つの側面があるという。「一つは尖閣諸島をめぐるもの。この島をめぐって、日本と戦争してまで実現すべき政治的目的が、中国に本当にあるだろうか。戦争になれば、中国の経済成長も大きく損なわれる」「ことは防衛のための情勢認識。バイアスを排除し、冷静かつ客観的に見る必要がある」

 もう一つの側面は「中国が南シナ海で軍事支配をさらに強めるのではないか、という懸念。こちらは海洋の秩序をめぐる米中の覇権争いだ。日本の主権と直接つながる話ではない。それに日本がいかに関わるかを考える必要がある」

 防大教授を務めた孫崎氏も外交の力で日本を守る道を提唱する。防衛力は基盤的防衛力(自らが力の空白となって侵略を誘発することのないレベルの防衛力)にとどめ、外交力を駆使し、攻められる理由を作らないようにすべきという。「北朝鮮に対しては、その指導者の安全を侵さない、体制の転換を図らない姿勢を明らかにする。中国に対しては、尖閣諸島の問題を棚上げすればよい。日本と中国が軍事的な対立に至る要因はこれしかない」

 トランプ大統領がトップに立つ米国はどこまで頼れる存在なのか。防衛大綱と中期防の改定を好機ととらえ、日米同盟について国民が議論するためのたたき台を盛り込んではどうか。

 防衛大綱について議論する有識者懇談会でも「安全保障の基本は自力であり、同盟についても、我が国自身でどうするのかをもう少し議論することが必要」「同盟はどんなに強くても運命共同体ではなく、相互が重要と感じるための魅力化が必要。同盟関係の中で我が国がより主体的に関与していくことが必要」との意見が出た。孫崎氏も「政府が選択した防衛政策が正しいことを証明するためにも、他の選択肢を提示し、比較検討する必要がある」と指摘する。

 改定される防衛大綱・中期防が対象とする今後10年のうち6年間、日本はトランプ大統領と付き合っていかなければならない可能性があるのだ。

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